第8話 「ホテルじゃありませんっ!」
吹雪
「私、砲撃も航行も苦手だったでしょ。だから今の鎮守府に来る前はほとんど実戦に出してもらえなくて。でも、だから、みんなと海に出たいって、毎日思ってた」
「分からないけど、艦娘だったらみんなそう思うんじゃないかな」
「大和さんは戦艦なんだよ。ホテルの支配人じゃないんだよ」
「海は素敵です。みんなと一緒に海に出るのは、とても素晴らしいですよ。大丈夫です、今なら誰もいないし」
「あっさり~しじみ~はまぐりさーん」
「大和さんの言ってること、立派だと思います。でもやっぱり、私、我慢できないんです。私も海に出られなかった時期があるから分かるんです。だから……」
加賀
「でも、頑張ったわ」
瑞鶴
「へんなこと、しないでよね!」
赤城
「噂では46センチ砲を装備していると聞いたことがあります」
「それどころか、その存在を隠すため、他の艦娘と海に出たこともないと言われています」
「ちゃんと褒めてあげるなんて、さすが加賀さんね」
翔鶴
「仕方ないわ。それぞれの部隊で五航戦の誇りを持って戦っていきましょう」
大和
「大和型1番艦、大和。推して参ります」
「ホテルじゃありません!」
「吹雪ちゃん、大変言いにくいのですけど……お腹がすきました」
「私だって艦娘です。みんなを守るために存在しています、だからホテルみたいって言われると、寂しくもなります。でも、今は仕方ありません。来たる日までここで精いっぱいがんばります。だから、もう大丈夫です、ありがとう」
「みんなで海へ行くってこんな風なんですね。一人で行くのとは大違いです」
「私がやってみます。…………大丈夫、責任は私がとります」
「敵機捕捉!三式弾装填、仰角最大、全主砲、薙ぎ払え!」
「金剛さん、大和ホテルじゃありません。私は大和型1番艦大和です」
長門
「戦術的勝利。戦略的敗北……か」
「補給路が伸びきってる以上、拠点MO攻略は必須だ。態勢が整い次第、再度攻略に向かうことも提督に進言する」
「最重要艦なだけに、ダメージを受けて大量な資材を消費することは避けたい」
「カワイイでちゅね~~私だって好きであんなこと言ってるんじゃないでちゅよ~本当はこんな…………聞いてか?」
陸奥
「どうするつもり?MO攻略して補給路を確保、この前進基地に戦力を結集し、FS作戦を進める、という目論見だったはずだけど?」
「大和はあの装備を積んでいることもあって、資材と燃料の消費量が破格で、運用が難しいのよ」
第9話 「改二っぽい?!」
吹雪
「大規模改装ってすごいんだね。前までと姿も全然違うもんね。足もスラーっとしたし、背もすごく大きくなったし」
「ですよね。それに私たちの目的は、深艦棲艦を倒し、海を奪回することですもんね」
「特型駆逐艦吹雪、幸せであります!」
「ばかだなあ、私。みんな頑張ってる、みんなみんな頑張ってる、自分のために、みんなのために」
睦月
「そんなことないよ!だって、この前の戦いでも、活躍したんだよ。みんな、スゴイって言ってたもん」
「本当だよ!睦月、本当にスゴイって思ったよ!吹雪ちゃんの努力と勇気!見習わなきゃって!」
「がんばれ、吹雪ちゃん」
夕立
「よりどりみどりっぽい~」
「たしか12.7cm連装砲B型改二とか言ってたっぽい」
「でも、本当に夕立でいいの?どうしよう、夕立、主力艦隊になっちゃった~!」
「はっ! 深海棲艦に悪夢、見せてあげる!」
川内
「特型駆逐艦が第五遊撃部隊の旗艦になった頃から、あの子、練度を上げたいって、朝練習するようになってさ」
「頑張っている姿を見て、自分も努力しなきゃって思ったんだって。同じ駆逐艦として、水雷魂忘れちゃだめだって」
雷
「わ、わたしに任せなさい。えーと、破ぁーー!!」
赤城
「練度は練習の内容や、状況によって変化しますし、大規模改装は可能になる条件も各艦によって様々。気にしてもしょうがありません」
「その通りです。努力に憾みなかりしか。吹雪さん、あなたは頑張っていますよ。腐らず続けていけば、必ず結果はついてくると思うわ」
「がんばりなさい」
大和
「そうですね、私もまだ経験がないのでよく分からないんですけど。一般的には戦闘経験を積んだことによる高い練度が必要と言われています」
長門
「まず、駆逐艦夕立。……明日から第一機動部隊へ転属を命ずる」
「FS作戦成就に向けて、これから戦いは更に激化していくことが想像される。常に準備は怠らないように」
「分かっている、ただもう一度提督に伝えてほしい。今であればMOの攻略は可能だと」
「手薄になった防衛線を突破されたか。深海棲艦の機動部隊がそこまでするとは、まさか提督はこの動きを察知して戻れと?」
「幸いみんなの協力もあり、鎮守府復旧のめどが立った、この後、工廠、港などが使用可能になり次第、敵機動部隊への攻撃を開始する!」
「提督は今現在も行方不明、しかしここに提督の残した作戦指令書が見つかった。作戦と共に、ここに提督の言葉が書かれてある。駆逐艦吹雪!…………提督からの言葉を伝える!改になれ!」
大淀
「一二一五より、爆撃を受けたようです」
第10話 「頑張っていきましょー!」
吹雪
「頑張る!私、必ず改になってみせる!」
「司令官、見ててください。私がやっつけちゃうんだから」
「まだ、大丈夫。倒すことができれば……きっと、きっと」
「誰かの役にたつこと。どんな些細なことでもいい。みんなの役に立ちたいの」
「絶対、いなくなったりしないから。約束するから」
「やります、やらせてください!」
「だめ!私、赤城先輩の護衛艦になりたいの。誰かの役に立ちたいの。……お願いします、もう一度、もう一度」
「司令官。私、赤城先輩の護衛艦になります!」
睦月
「吹雪ちゃん、だめー!!」
「よかった、よかったよお」
「そんなの、どうでもいいよ。吹雪ちゃん、轟沈するところだったんだよ!……だめだよ、あんなことしちゃ。轟沈したらもう戻ってこれないんだよ、戦うことも歩くことも、みんなとお話することも、何も、できなくなっちゃうんだよ。今回もできないまま、海の中に消えちゃうんだよ」
「私、もうイヤなの。如月ちゃんみたいに吹雪ちゃんがいなくなったらって、思ったら!もうあんなの、イヤなの!」
夕立
「こうなったら素敵なパーティー始めるしかわね」
川内
「少しは気持ち、考えてあげないとね」
神通
「至急、この海域から離脱します」
「仕方ありません。三水戦、戦闘用意!」
那珂
「写真は鎮守府を通さなきゃだめ!」
「もう!しつこいんだから!」
赤城
「以前、提督に言われたことがあるんです。私の随伴艦は私がきめなさい、と」
「いきますよ!立ちなさい、あなたのこれまでの努力はそんなものではなかったはずです!……私は知っています、海上を進むことすらままならなかったあなたが、悖らず、恥じず、憾まず。いかに前を向いてここまで来たか、あなたならできるはずです!!立ちなさい!」
「よくがんばりました。上々ね、すぐ工廠へ行きなさい」
「吹雪さん、約束通り、次の戦いの随伴艦はあなたにお願いします。引き受けてくれますね」
加賀
「珍しい。あの子が赤城さんを見つけて、そのまま行ってしまうなんて」
「赤城さんの意思は尊重したい。けどあなたは私にとって、いえ連合艦隊にとって、決して欠くことのできない一航戦の正規空母。吹雪さん、あなたに赤城さんを守る力があるのか試させてほしい。無理だというなら、今ここで辞退して」
「それでは赤城さんの護衛艦を務めさせるわけにはいかないわ。もう一度」
「早くたって、それとも諦める?」
大井
「空気読みなさいよ!そこの海に沈めるわよ!」
長門
「そうだ。提督はおまえを大規模改装させるために、鎮守府に呼び戻した。おまえが次の戦いに必要になる、どうしても欠くことはできない。そう仰っていたのだ」
「我が連合艦隊の総力をもって、棲地AFを攻略、敵の機動部隊を誘引し、これを撃滅せよ」
「任務はあくまで、棲地AFの特定だ。すでに北方海域と南西海域には別の部隊を偵察に出している。鎮守府に爆撃を行った機動部隊は敵の主力部隊であることは間違いない。近づけば必ず動きがあるはずだ」
「いや、なぜ提督はあの艦を選んだのかと思ってな」
「特型駆逐艦の一番艦ではあるが、装備、機動性において特に秀でたものはない。大規模改装が行われたところで、劇的な変化は望めないはずだ」
「ばかな、ただ疑問に思っただけだ」
「指令書に残された棲地AFは、MIと断定する!」
「私にも分からない、ただ指令書にも書かれているのだ。『駆逐艦吹雪がこの作戦の鍵となる』とな」
陸奥
「妬いてるの?あの子に」
「提督はきっと気まぐれなのよ、あなたを秘書艦に指名するくらいなんだから」
「焼きもち焼くのも悪くないわ、私だって妬いてるのよ。自分の大切な子を秘書艦にした提督に」
第11話 「MI作戦!発動!」
吹雪
「赤城先輩。私、この鎮守府が大好きなんです。睦月ちゃんや夕立ちゃん、三水戦の川内さんたち。金剛型のお姉さんたちや、第五遊撃隊のみんな。暁ちゃんたちや高雄さんたちや最上さん、間宮さんに利根さん、島風ちゃん。そしてもちろん、赤城先輩。この鎮守府にきて、みんなすごいなって!みんな素敵でかっこよくて、私もみんなの仲間にこの鎮守府の本当の仲間になりたいって。そう思ったんです、だからやっぱり、私が頑張れたのは皆のおかげで。だからやっぱり、ありがとうございます!!」
睦月
「安心して行ってきて。二人が帰ってくるこの場所は、絶対守るから」
赤城
「何かがささやくのです。私たちをある方向へと常にいざなう何か。まるでかつて起きたできごとを再び繰り返させようとしているかのような。長門さん、あなたはそんな大きな流れにも似た何か、定めのくびきのようなものを感じたことはありませんか?」
「思い過ごしかもしれません。でも、もし本当にそんなようなものがあるなら、私は…………私はその運命に抗いたい!」
「誇るべきなのは、たゆまず努力し続けたあなた自身。私はただ、ほんの少し手を貸しただけに過ぎません」
「(提督がこの小さな駆逐艦にどんな光を見たのか、それは分からないけれど、確かなのは私はこの眼差しに応えなければならないということ。私を慕う後輩たちの、ともに戦う仲間たちの信頼に。打てる手は打った。もう迷わない、それが定めだと言うなら、打ち砕いてみせる!私は一航戦赤城なのだから!)」
「勝ちましょう、吹雪さん」
「勝つためには主力部隊と私たち機動部隊が密に連携しなければなりません。だからこそ、あなた方にお願いしたいのです」
「第一機動部隊!一航戦、二航戦に命じます!艦載機を爆装!飛行場姫への攻撃を開始します!」
「わかりました!残りの機体も爆装させ、飛行場姫攻撃に向かわせましょう!」
「どうして、こんな事態だけは避けようと。……なのに」
「…………やっぱり、抗えないの。……運命には」
加賀
「進みましょう、赤城さん。大和隊との合流のために、数艦を残し、私たちは索敵を続けながら先行すべきです。敵に発見されたら全て終わりですから」
長門
「これより明日、実施されるMI作戦の艦隊編成を発表する。まずは作戦の要となる、第一機動部隊から一航戦赤城、加賀。二航戦飛龍、蒼龍。護衛として戦艦金剛、比叡。重巡利根、筑摩。雷巡北上、そして駆逐艦夕立、吹雪」
「また、攻略の主力艦隊だが、本鎮守府から戦艦榛名、霧島。雷巡大井が、トラック島から出撃する大和を旗艦とした艦隊と合流することになっている」
「さらに本作戦には、攻撃目標が棲地MIであることを敵に悟られぬよう、陽動部隊を棲地ALに向けて出撃させることも含まれている。AL作戦には他の鎮守府から、隼鷹と龍驤が参加する。この2艦の軽空母と共に、重巡那智、軽巡球磨、多磨。駆逐艦暁、響、雷、電。以上だ。他の艦娘たちには鎮守府及び近海域の警備に当たってもらう、諸君の見当を期待する!」
「実をいうと、暗号名AFが棲地MIを指すと判断した時、まったくと言っていいほど迷いがなかった。なぜかそこだと分かったし、今もそれが合っていることに疑いはない。私たちは絶対に棲地MIに向かわなければならないと、そう思ったんだ。まるで何かに突き動かされるように」
「陸奥。時々どうしても考えてしまうんだ。我らは一体、何のために存在してるのだろうな」
「諸君!ついにこの時が来た。いよいよMI作戦が発動される。我々にとって、これはかつてない規模の大作戦となる。今後の我がほうの戦い、全ての帰趨を決すると言っても過言ではなかろう。本作戦の目的は、敵の空母機動部隊を戦うことにある。そのために棲地MIを攻撃目標とし、ここを攻撃することで敵の機動部隊をおびきだし、撃破する。この作戦は提督の意志だ!その想いは常に我ら艦娘とともにある。諸君!暁の水平線に勝利を刻むのだ!」
第12話 「敵機直上、急降下!」
吹雪
「だめです!そんなものに負けちゃダメです!みんなが私たちの勝利を信じて待ってるんです。私、司令官に初めて会った時に言われたんです、ここから始めようって。何もないところから、全ては始まるんです!何にも捉われず立ち向かわなきゃダメです!それが全てを変えるんです!」
「何かを変えるには、決められた何かに抗うのにはそれしかない。長門さんはそのことに気づいて。すごいです」
「司令官は仰いました。敵機動部隊を叩き、棲地MIを攻略せよと」
「分かりません。でも、敵の主力空母は3杯。そんな気がするんです」
「でも、静かな海を取り戻すには」
「おかえりなさい、司令官!」
赤城
「一撃。いえ、それに至る今までの全ての行動でこの子は変えてしまった。私たちが必死に抗おうとしてできなかった何かを。この子は一体……」
「これが力……」
「この戦いがいつ終わるのか、どうすれば終わるのか。それは誰にも分からない」
「変えたのです。定めのくびきに抗い、変わるはずのない何かを。私たちは変えたのです」
大井
「両舷合わせて80門の魚雷は伊達じゃないわ。海の藻屑となりなさいな!」
北上
「二人合わせて片舷40門!」
瑞鶴
「きっとヘマをする空母が1杯や2杯いるかと思ってね。持ってきた」
大和
「MI攻略旗艦、大和!推して参ります!」
「やっとこの時が来ました。ずっとずっと悠久の昔から、私はこの時を待ち望んでいた気がします。皆さんの手をとりあい、戦うこの時を。左舷砲声用意!三式弾装填、第一、第二主砲斉射!!」
「砲戦用意!両角合わせ、全砲門発射用意、てぇーー!!」
「感じませんか、まだ何か強い力が働いていることに」
「そうです、私がここに遅れてしまったのも、新たな敵が現れたのも、まるでかつてあったものをあった通りにしておこうとする力。退却したら、その力はより強くなるような気がするんです」
「ここで撃ち破らなくてはいけない。私たちを縛り付けている何かを」
「これより全艦、鎮守府に帰投する!提督が待ってるぞ」
長門
「その通りだ! 怯むな! 運命に抗うということは簡単なことではない!しかし、だからこそ価値がある!成し遂げる意義がある! 艦隊!この長門に続け!」
「よし!みんなよく頑張った!これで変える!全艦、砲撃用意!てぇーー!!」
「駆逐艦吹雪!夕立、最上、川内、神通、那珂とともに、敵空母を撃沈せよ」
「戦って勝つしかない」
「全砲門、構え!てぇーーーー!!」
大鳳
「提督からの伝言です。敵機動部隊を殲滅せよ、繰り返す、敵機動部隊を殲滅せよ。それがMI攻略の、いやこの戦いに勝利する唯一の手段だ」
大淀
「聞えますか、鎮守府、全艦隊、全艦娘に告げます!提督が、提督が鎮守府に着任しました!」
| |
劇場版 艦これ
吹雪
「ううん、大丈夫」
「帰ってきたんですよ。私たちを探して、睦月ちゃんのもとに、やっと帰ってきたのに」
「そんな戦いに何の意味が……」
「進みましょう。私も不安です、だけど前に進みましょう。私たちは今、そのためにここにいます」
「必ず戻ります!あそこに何があるのか、誰がいるのか確かめて!」
「そうか、私は希望なんだ。みんなの思いが作り出した、希望なんだ。無念じゃない、希望なんだ。この戦いを超えて、前に歩き出すための」
「繰り返さなくても、ここに留まらなくても、大丈夫なんだよ。……水上に出て新しい世界に、前に歩き出しても」
「心配しないで、みんながいるから」
「想いがある、みんなの無念と同じだけ希望がある。大丈夫、きっと覚えておいてくれる。私、あなたのことも忘れない。私たち、歩き出せる、だから!」
睦月
「おかえりなさい、おかえりなさい!!」
「大丈夫、大丈夫だよ、混乱してるだけだよね。如月ちゃんは……大丈夫」
「何言ってるの?良いに決まってるよ!如月ちゃん、ずっと一緒にいたじゃない」
「きっと疲れてるんだよ。色々あったし」
「そんな!如月ちゃんは私たちと一緒。仲間です!艦娘です!」
「それと、私たちは戦っているっていうんですか?」
「でもそれって永久に終わらないってことじゃないですか?深海棲艦に沈められた艦娘は深海棲艦になって、艦娘に沈められた深海棲艦は艦娘に戻って……」
「心配しないで、私がずっと如月ちゃんのそばにいるから、何があっても」
「如月ちゃんは何も心配しないでいいの、ずっと一人で大変な思いをして、やっと帰ってきたんだもん。何にも悪くない」
「誰が何を言っても、どんなことが起きても、私は絶対に如月ちゃんと一緒だよ。だから……」
「大丈夫、絶対戻ってくるから。如月ちゃんを一人になんかしないから」
「吹雪ちゃん、私不安だった。如月ちゃんが深海棲艦になっちゃったらって。でも!やっぱり如月ちゃんは如月ちゃんだよ!」
「ずっと、一緒だよ。ぜったい、ぜったいにまた会おうね。わたし、必ず如月ちゃんのこと、見つけるから、だから、睦月のこと、忘れないでね」
「大丈夫だよ、わたし、必ず取り戻すから。静かな海よ、いつか、必ず」
夕立
「それ、さっきも言ってたっぽい」
「それって意味ないっぽい!」
如月
「睦月ちゃん……帰ってきた」
「睦月型駆逐艦、ただいま帰投しました」
「あのね、睦月ちゃん。……私、本当にここに居ていいのかな?」
「でも、なんだか私、たまに意識がなくなるの。帰りたいって思いながら、でも、どんどん離れて行って暗いところに落ちていくの、沈んでいくの。いやなんだけど、怖いんだけど、でも、私、行かなきゃいけないのかもって」
「私もそう思ってた、でも今日、気づいたら私、撃ってた。このままだと、みんなのことも…………私、怖いっ」
「私が、私が……あの、深海戦艦になる?このまま……」
「よかった、間に合って」
「睦月ちゃん、ごめんね。……私、睦月ちゃんとみんなと、たたかい、たかった……」
「きず、つけたくなかった、でも、もどれなかった……」
「睦月ちゃん、私ね。私たちの時間、わたしたちのひだまり、睦月ちゃんの声、わたし、わ、忘れない、うちに…………こんどは、きちんとおわかれ、言いたかった……」
「そのときは、お話のつづき、聞かせてね……約束よ」
赤城
「放っておけば、いえ、おそらくどんな手を施しても彼女はいずれ深海棲艦へと姿を変える」
「彼女は正真正銘、私たちの仲間。睦月型駆逐艦二番艦、如月。海の中へと沈み、戻りたい、帰りたいという想いを持ったまま消えていった」
「加賀さんがここにいる、深海棲艦の記憶を持った艦娘がここにいるということは、もう一度艦娘として戻ってこれたということ」
「私たち艦娘がこの戦いを終わらせる唯一の方法。だから私たちは沈んではいけない」
「艦隊司令部と突入部隊に打電。我、敵機動部隊主力の北方誘引に成功す」
「吹雪さん、おかえりなさい」
加賀
「言った通りよ、如月さんをここに置いておくわけにはいかない」
「分かっているわ、でも彼女は沈んだの。もう以前の如月さんではない」
「彼女が沈んだという事実は変わらない。いずれ彼女は深海棲艦へと姿を変える」
「艦娘の中には、その思いの強さ、悲しさ、口惜しさから消えずに深海棲艦へとその姿を変えてしまう者もいる」
「想い半ばの悲しみ、口惜しさ、未練、この私がね。そして、ただただ苦しい、やりきれないという負の記憶。帰りたい、叶えたい、やれるはず、こんなはずじゃない、ただただその思いだけを、眼前の生ある者にぶつける。悲しくつらい記憶」
「実際、感じることはない?深海棲艦の中に、わずかな感情。共感できる何かを」
「轟沈し私たちの一部は、深海棲艦へと姿を変え、私たちのもとに帰ろうとする」
「意味は、あるわ!」
「分からない。でも、もし艦娘が沈んで深海棲艦となるように、深海棲艦を沈めて沈んだ者が艦娘となるのだとしたら、もしそうなのだとしたら……」
「いいえ、違う。もし、私たちが誰一人沈まずに深海棲艦を沈めることができれば……」
「深海棲艦となった彼女を沈める、それしか、ない」
「それは、言葉では言い表せないほど、つらくて苦しいことだから。あなただって、あなただって本当は知っていること」
「作戦は始まっているわ、しっかりね」
「おかえりなさい、よくやったわ」
瑞鶴
「昔、聞いたことがある。轟沈した後の記憶を持っている空母がいるんじゃないかって、……ねえ、なんで何も言わないの?」
「さっきはごめん、あんなこと言って」
翔鶴
「第三艦隊、旗艦飛龍より入電。索敵機が敵機動部隊を発見。第二航空戦隊、飛龍蒼龍をおよび第四航空戦隊、龍驤。攻撃隊を全力出撃せよ」
川内
「そういうこと!さあ、夜戦だよ夜戦!」
「夜はいいよねえ、また夜に行くのも」
神通
「前衛部隊、まだ敵と接触していない模様です」
金剛
「先手必勝、見敵必殺。それしかないデース」
比叡
「私たちはこのまま鉄底海峡に突入します!前衛部隊にも連絡おねがいします!」
「前衛部隊、会敵!敵と交戦中、砲戦用意……」
「分かっていたことでしょう、がんばるの!」
「よし、これよ、旗艦権限を大和に移譲します。各艦大和に続行、作戦を完遂されたし」
長門
「本日、当時刻をもって本案件をD事案と認定。以降、別名あるまで本件に関わる一切を一級軍規とする」
「飛龍らしいが、さすがに戦力比が違いすぎる。一撃くわえたら、後退するように指示を。撤退を援護する、後詰として第五航空戦隊、翔鶴、瑞鶴に緊急出撃命令」
「しかし、闇雲に変色海域に突入すれば損傷を受け、ヘタをすれば会敵の前に全滅の危険もある」
「これより、南方海域ソロモン方面への全力出撃による作戦を展開する」
「本作戦の最終目的は、ソロモン海域深部にて拡大、浸蝕を続けるアイアンボトムサウンド変色海域発生源の発見、および同破壊、殲滅だ。変色海域では敵深海棲艦以外の生命は死滅し、我ら艦娘の艤装も浸蝕、破壊されていく。この中で作戦を遂行することは困難を極める、しかし放置すれば変色海域は拡大を続け、アイアンボトムサウンド中枢部へ長期攻撃を仕掛けることは永久に不可能となる。よって、このショートランド泊地の水上部隊、全力をもって突入作戦を遂行する!各艦は、心して作戦にあたってほしい。これより、各艦隊の編成、航行序列を読み上げる。第一艦隊、空母機動部隊旗艦、第一航空戦隊赤城、同加賀。第五航空戦隊、翔鶴、同瑞鶴。直衛に…………」
「以上だ。作戦の詳細に関しては追って知らせる。各自、出撃準備にうつれ!」
「作戦は開始された!艦隊は出撃!全艦、抜錨せよ!」
「作戦概要はこうだ。まず一航戦赤城加賀を旗艦とした機動部隊、第一艦隊。敵戦力への対抗として五航戦を編入。直衛として、金剛榛名を艦隊の守りにつける。この艦隊で、接近中の敵増援、大機動部隊群の迎撃、これを北方に誘引する。さらに、第一艦隊の側面より、再編した飛龍蒼龍の二航戦、これに軽空母龍驤、軽空巡洋艦鈴谷、熊野。重巡戦隊、軽巡那珂率いる四水戦より編成された第三艦隊で支援。そして、第一第三両艦隊が作る間隙で、ソロモン海に突入する主任務を受け持つのが、戦艦、そして夜戦部隊を旗艦戦力に編成した第二艦隊だ。第二艦隊は旗艦突入主力艦隊に比叡、霧島、そして第一戦隊から大和を抽出してこれを投入。同時に神通の二水戦を同主力艦隊の直衛にあてる。一方、雷撃戦力を強化した三水戦。川内率いる前衛艦隊は突入部隊に先行し、警戒と前路掃討にあたる。第一第二第三艦隊、そして私が直率する最終防衛ラインの全四艦隊による総力戦だ。各艦、たのだぞ!」
陸奥
「ただし、二航戦を収容したらただちに全速で同海域より退避。…よね?」
衣笠
「炭酸が効いてておいしい、これが噂の大和ホテルラムネ!」
大和
「ホテルじゃありません!」
「この世界、私たちの戦い、出口がないように思いますか?」
「この世に生まれて、艦娘として生を得て、ここにいるのは何のためか。私たちは何のために生まれたのか。守りたい、仲間を、絆を、この想いを伝えたい、そのためにここにいるんじゃないかって。そう、私たちの戦いには意味がある、それはとても難しく困難なことだけど、きっとできる。それを希望、というのかしら」
「みんなを守るため、この戦いを終わらせるために」
「比叡さん見えます、ありがとう。大和、全主砲徹甲弾斉射!てえ!!」
「ここから先、敵の攻撃も激しくなるでしょう。損傷の激しい艦は各個後退、残存戦力は目標到達を優先してください」
「私は大和型戦艦一番艦です。あの程度の戦力風情に、やられたりはしません」
「武運長久を!」
大淀
「ソロモン海域北部外縁を哨戒中の第二航空戦隊、旗艦飛龍より緊急入電」
「発、第二航空戦隊飛龍。宛て、南方海域艦隊司令部付き長門。我、南太平洋ソロモン海域北部外縁部において複数の敵有力なる機動部隊群を発見。敵の機動部隊群、各輪形陣中心は空母正規級の模様、随伴護衛艦に高速戦艦タ級、防空巡()複数を認む」
「二航戦飛龍より続報、我、これより航空戦の指揮をとる。稼働攻撃隊、発艦開始す」
「空母正規級を主力とした、6群以上の集団が確認されています。ここです、敵集団の進行方向から推測される到達ポイントは……」
「先行した機動部隊、南太平洋作戦海域に到達。旗艦飛龍より入電。我、索敵機の展開を完了せり。ただちに、第一攻撃隊、発艦準備に移る。主力機動部隊、赤城からの入電。未だ敵兵みず、我、索敵機第二陣を発艦せしむ」
吹雪(深海棲艦化)
「鉄底海峡、アイアンボトム・サウンド。ここで多くの艦が沈んだ。特型駆逐艦その一番艦、吹雪、あなたも。特型と呼称されるその性能も、期待された戦果も残すことなく、無念を抱きながら」
「でもあなたは沈みたくなかった、この海で終わりたくはなかった。強く、そう願ったわ。鉄の底の海、ここに沈む無念、想い。それがあなたを助けた、それが私を沈めた。こうして私とあなたは生まれたの」
「そうして、あなたはこの繰り返される戦いの海の輪の中で、特別になった。悲しい記憶を全て失って、海の底に、私を置いて。そしてあなたは自由になった」
「繰り返される定めのくびきから、自由になった。悲しい定めに囚われることなく、戦場をかけ、艦娘たちの運命をも変えていく。……でも、それはあってはならぬこと、私たちは忘れられ、塗りつぶされ、定めのくびきとも言える悲しい繰り返しの中で、消えていく存在」
「自由になったあなたと、分かれたわたし。残されたのは、水上にあるものへの憎しみ、妬み、渇き、ただそれだけ。……だから水面にあるもの全て、この海に溶かしていくの。だって憎いもの、あなただって、本当は帰って来たかったんでしょう、この鉄の水底に、おかえり。もういいよ、一緒にこの海に溶けよう、頑張らなくていい、前に進まなくていい、繰り返される絶望の中で、壊れていよう、閉じた世界で消えていこう、そうしていつかまた、必ず起きる繰り返す悲劇よ、ここで待とう」
「何度でも、何度もここに戻ってきて沈め。光などない。望みなどない。この水底で、そうして誰からも忘れ去られて、消えていけ」
| |



