漆崎日胡
「まあな、じゃないよ!もっと自分の体のこと考えてよ!」
「ありがとう」
赤血球
「はい! 絶対に立派な赤血球になります!」
(赤芽球)「お兄ちゃん!助けてくれてありがとうございました。私もおっきくなったら、絶対、立派な赤血球になる」
「皆さんが羨ましくて、いろんな役割があって、この体を守るために、必死に敵と戦って、カッコよくて…私なんて、ただ酸素を運ぶことしかできないのに。道に迷ってばかりで、立派な赤血球になるって約束したのに」
「私だって。私だって怖いよ! すごく怖い。でも今、この体を守るためにみんな必死に戦っている。だから私は逃げない。何があっても、戦っている細胞さんたちに酸素を届ける。それが私の仕事だから」
「私たちは同じ世界で生まれた仲間ですよね? どうして争い合わなきゃいけないんですか?」
「白血球さん、あの時の……」
「約束します。だからお願い、死なないでください。お願いします」
白血球
「肺炎球菌のターゲットは栄養分を運んでいるお前ら赤血球だ」
「肺炎球菌はな、放っておくと各臓器を襲撃し、最終的にはこの体を滅ぼす」
「勉強不足だな。俺たち白血球は”遊走”といって血管の壁をすり抜けて、敵のところへ行くことができるんだ」
「ばいばい菌だ」
「外からの衝撃により血管の外壁が崩壊し、血流たちが流れ出てしまう……つまり、すり傷だ!」
「この傷口から落ちたら最後。二度とこの世界には戻れない」
「早く塞がなければ、外から害で祈が侵入してきてしまう」
「血管に穴が開いた時はな、外壁となる細胞の修理が終わるまでの間、俺たち血球の体を使って、穴を塞ぐことになっているんだ。これが二次血栓だ」
「乾燥して、カサブタになるまで待つか」
「ここ鼻腔ではな。一日1リットルの粘液が湧き出ている。これが鼻水となって、ホコリやカビウイルスを洗い流してくれるんだ」
「そんなことはない。俺たち白血球がパトロールして敵を見つけて、マクロファージが敵の情報を教えてくれる。そのおかげでヘルパーT細胞が指示を出せて、キラーT細胞たちもやってきて、みんなで敵をやっつける。それぞれがプライドを持って仕事をしている。お前だってその一員だ。俺たちが戦えるのは、お前ら赤血球がいつも酸素を運んでくれるからだ。俺たちはみんな、同じ体の中ではたらく仲間だろ。だから、お前はよくがんばってる」
「もうやめろ。お前らくるった細胞たちの力じゃ、この体を維持できるわけがない」
「あれのせいだ。あれは白血病細胞を破壊してくれるが、同時に俺たち血球や正常な細胞たちも、相当な数が死ぬことになる」
「あいつらな必ず来る。必ず俺たちのもとへ酸素を届けてくれる」
「怖気づくなんてお前らしくないな。今ここで戦わなければ、この体は終わる」
「俺たちの故郷(ふるさと)、赤色骨髄では、今もまだ俺たちを生み出してくれた造血幹細胞たちが、はたらいてるはずだ。造血幹細胞たちに酸素を届けてあげてくれ。もっと、俺たちの仲間を生み出してもらうんだ」
「悪いな。俺はお前を殺さなければならない」
「勉強不足だったな。俺は血管の壁をすり抜けて、敵のところへ行くことができるんだ」
「俺は、おまえを救うことはできない。治してやることも、生かしておくこともできない」
「おまえをぶっ殺す。それが俺の仕事だ」
「俺はいい…………ほかにもっと酸素を必要としている細胞たちがいる。……この体を守り続けるには、おまえら赤血球の力が必要だ。何があっても、酸素を届けてやってくれ……約束だ」
「赤血球…………立派になったな、頼んだぞ。」
血小板
「はい。じゃあ凝固因子でフィブリンを繋ぎ合わせるよ」
「みんな集まってくれないから、痣が治らなくて困ってるの」
マクロファージ
「ヘルパーT細胞さん。マクロファージである私から。ウイルスや細菌が体内に侵入したとの知らせを受けると、攻撃するための戦略を立て、キラーT細胞さんに戦う指令を出すのよ」
「キラーT細胞さん。細菌やウイルスに感染した細胞などを直接攻撃してやっつけてくれる頼もしい細胞よ」
「血小板。血液に含まれる細胞成分の一種。血管が損傷した時に集合して、傷口を塞ぎ止血してくれるのよ」
「言ってなかったっけ?私にはね、先生以外にもいくつもの顔があるのよ。殺し屋とかね。あなたは早く行きなさい、自分の使命を全うするのよ」
キラーT細胞
「お前らいいか。発見次第2秒で仕留めろ。取り逃がした腰抜けは脾臓送り!二度と戻れんぞ!」
「NK…テメェ。俺らの手柄を横取りしやがって!」
「手柄横取りされてたまるかよ! お前ら行くぞ!」
「いいか、気をつけろよ。白血病細胞はどこに潜んでるかわからん。油断するな!」
「バグ野郎。俺が相手してやる、かかってこい!」
「酸素不足だ。何やってんだ赤血球の連中は!このままじゃあ俺ら全員死滅するぞ!」
「ほんとにテメェはナルシスト野郎だな!テメェだけにカッコつけさせてたまるか。俺もここで戦う!」
「白血球! 俺たちが援護する。お前は赤色骨髄に行け!」
「俺だってよ。本当は羨ましかったぜ、誰の指図も受けず、自由に戦えるお前のことがよ!」
「頼んだぜ、白血球」
NK細胞
「すぐにオラつくな。所詮、ヘルバーT細胞の指示なしでは動けない、お子ちゃま戦闘員が」
「群れて戦うことしかできないだろ。その点、この私はたった一人で自由に耐兄を動き回ることができる。私は生まれながらの殺し屋。ナチュラルキラー、NK細胞様だ!」
「おかしいな。最近おまえら白血球を見る数が減ってる」
「ここは私に任せて、お前は赤色骨髄に行け!」
「私は誰の指図も受けない。自分の意志で戦う!」
「楽しかったぜ。たまには他と群れて戦うのもな」
神経細胞
「緊急! 緊急! アドレナリン上昇!」
「ドーパミン エンドルフィン 分泌活性化だ!」
好中球先生
「血球として生まれて14日経ったが、仲間はみな骨髄球へと成長してる中、君たちは骨髄芽球のまま成長が止まっている。このままじゃ分化するはたらきが失われ、君たちのような異常な血液細胞が急速に歯止めなく増殖して、正常な血液を作るはたらきが損なわれる」
「悪いが、この体内において君らは必要ない。処分する」
骨髄芽球
「僕! 大きくなったら絶対お兄ちゃんみたいな、強い白血球になる!」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「離せ! 僕は立派な白血球になってはたらくんだ!」
「なんでだよ? 何でぼくが!? 何で……何でなんだよお!!うおーーーっ!!」
白血病細胞のボス
「久しぶり、お兄ちゃん。僕、大きくなったら絶対お兄ちゃんみたいな強い白血球になる」
「ねぇ、待っててくれた?僕のこと。お兄ちゃん、また僕と一緒に戦ってよ!強くなったか見てよ!」
「無駄だよ。僕らは永遠に増え続けることができる。殺しても殺して、殺しても殺してもだ!」
「どうして?何でお兄ちゃんまでそんなこと言うのさ?僕を待っててくれたんじゃないの?一緒に戦おうよ。強くなったか見てよ」
「まさかお兄ちゃんまで僕のことを不良品扱いしてないよね? だったら殺すよ」
「やっぱりお兄ちゃんも僕のことを不良品扱いするんだ。じゃ、いいよね、ぶっ殺しても!」
「どうしてさ。みんなして、僕を不良品扱いしやがって!」
「なんで!排除されなきゃならないんだよ!」
「何も悪いことなんてしてないのに!」
「ただ生まれてきただけなのに! カッコいい白血球になりたかったのに!!」
「どう?お兄ちゃん?醜いできそこないの僕に、殺される気分は? 悔しい?悔しいよね? ねえ、言ってよ?僕のほうが強いって言ってよ!」
「もう終わりかよ。つまんね」
「仲間じゃない。そう先に排除したのはおまえらのほうだ。だからさ、この世界を変えてやるんだよ。誰にも切り捨てられることなく、僕らが自由に生きられる楽しい世界に」
「なんで、何でだよ……僕だって、この体の一員として、みんなと一緒にはたらきたかったのに」
「やっぱさ、強いね。お兄ちゃんは」
(輸血後)新米細胞
「もう無理ですよ。僕たちがいくら頑張ったところで、この状況が何か変わると思いますか?周りをよく見てくださいよ。僕たちの他に赤血球なんかどこにもいないじゃないですか!? どうやったって、酸素の供給が追いつくわけない。この体はもう終わりなんですよ!!」
「僕は怖い。……もう楽になりたいんだ」
「何やってんですか!はやく酸素を運んでください!」
「僕は残って、マクロファージさんに酸素を供給して援護します。もう大丈夫です、何があっても酸素を届ける、それが僕の仕事なんだ」
ナレーション
「肺。空気中から得た酸素を体内に取り込み、二酸化炭素を空気中に出す役割を持つ器官」
「肺胞。空気と毛細血管の間で、二酸化炭素の交換を行う場所」
「血栓。血液中の凝固因子と呼ばれるタンパク質がはたらき、フィブリンの網の膜が、血小板血栓の全体を覆い固める」
漆崎茂
「なんで……何で俺じゃねえんだよ。何で日胡が……何で、……何でだよ……」
「あいつな。昔から弱音吐いたことがなくてな。母親が死んだ時も、俺のほうが慰められちまった。ほら、これ」
「情けねえ親父だよな、ほんと……ほんと情けねえよ」
「俺は何にもできねえから、どうか一緒に励ましてやってくれ。なっ、頼む」
新米細胞
「この体は大丈夫なんでしょうか……血管はデコボコで歩くのもやっとだし、上は酸素供給のノルマばっかりで、僕たちのことなんか全然考えてないし、このブラックな労働環境を改善してもらわないと…!」
「一体どれだけこの体は、俺たちを苦しめるんだ!」
先輩赤血球
「コレステロールの不法投棄か。こいつが増えると、動脈硬化の恐れが高まっちまう…」
「寿命がきたら、あのクッパー細胞に食べられ、養分として利用されていまうんだ」
「これが赤血球の一生だ。俺たちは死ぬまでひたすら酸素を運ぶだけの存在」
「でも大丈夫。おまえに何かあった時は、俺が助けてやる」
「こいつらには大脳の指令は届かない。便が直腸にたどり着くと、外に便を出そうとするためだけの単純な、連中だ」
「約束したろ。おまえに何かあったッと気は俺が助けてやるって」
肝細胞
「(酵素ADH)酔いを醒ますために、血液からアルコールを分解して抜くのも、」
「無理もないわ。この体が変わらない限り、私たちの環境は変わらない。いつまでも”ブラック”なまま。本当に悪いのは誰なのか」
外肛門括約筋
「いいか。命を惜しむなよ、俺たちはなるべくしてなった最強筋肉だ。大脳から指令が下るまで締め続けろ。緩めて出すなよ。やつら内肛筋の押し出しに負けんじゃねえぞ!ここは俺らが守ってんだ。プライドを持て、一瞬でも気を抜くな!排便垂れ流すな!」
「お前ら一人一人が持つ力で締め上げろ!」
ナレーション2
「肝臓。物質の合成や排泄・解毒など、多彩な機能を営む、生体の化学工場といえる臓器」
武田新
「お父さん。『自慢の娘だって、いつも社内で話してたらしい。出来の悪い自分とは違って、頭も良くて医者を目指してる。これから学費がかかるから、もっと仕事を増やしてほしい』そう社長さんに頼んでたみたいなんだ。それで休みの日の今日も仕事を」
七條医師
「いやいや、ここまで頑張れたのは日胡ちゃん自身の力だよ。日胡ちゃんが持ってる細胞たちの力がなかったら、移植前に体がダメになってた。お礼を言うならがんばった体に言ってあげて」


