第8話 火の試練
ターニャ・デグレチャフ
「我々は行くも地獄、退くも地獄というわけですか」
「逃した敵はまた銃をとるのだ。我々を撃つためにな」
「奴らを逃せば、あの中から帝国に憎悪を燃やす新兵が生まれるだろう」
「これは上からの命令だ。敵は撃たねば撃たれるのだ、少なくとも撃つなと言われるまでは撃たねばならん」
「もう一度だけ言う、これは上からの命令だ。銃をとりたまえ」
ヴォーレン・グランツ
「彼らは砲撃から逃げる術を知りません!もし、もし、我々があの魔導師たちを排除したなら……」
第9話 前進準備
ターニャ・デグレチャフ
「(なるほど、ボナパルトのアウステルリッツか、あるいはカンネーにおけるハンニバル、というわけか)」
「やるしかない。やるしかないのであれば、成功させねばならない!」
「つまり、明日の作戦こそが戦争を終わらせる一撃だ! 我々は全軍の先鋒たるぞ!」
「戦友諸君。私は神ではなく参謀本部。論理と知性の牙城を信ずる。義務と検診こそが我らの誉だ。この戦い、勝ちにいくぞ。煉獄であろうと赴き、征服する事こそ帝国軍人の本務! 番犬は優秀であるという事を教えてやれ!」
ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ
「指揮官は自分、だから部下が責任を負う必要はない。ひょっとしたらそんな意図があったのかもね」
ハンス・フォン・ゼートゥーア
「パラダイムシフトが必要でしょう。我々が直面しているのは、歴史が始まって以来の世界大戦です。敵の城に攻め入って、城下の盟(ちかい)を結ばせるといった戦前のドクトリンは実現性が乏しすぎます」
「勝利ではなく敗北を避ける、これ以外に最後まで立っているのは困難かと」
「積極的な行動については指示致します。ただし、その目的は突破ではありません。……できるだけ多くの敵兵を徹底して叩き、敵の戦争継続能力を粉砕する、それが戦争終結への唯一の道です」
クルト・フォン・ルーデルドルフ
「本計画における第一作戦は戦線の大規模後退による敵の誘因。その後の作戦への布石であります。我々は前に進まねばなりません。いわば、前方への脱出こそ最良の解決策であると確信いたします」
第10話 勝利への道
ターニャ・デグレチャフ
「参謀本部が進行中の戦争終結に向けた極秘計画だ。第一作戦、大規模後退による敵主力部隊の誘因。第二作戦、敵司令部を強襲しての指揮系統撃滅。第三作戦、行動戦術による敵陣地の突破。そして、回転ドア作戦での敵主力包囲。大規模包囲による完璧な撃滅、これこそまさに軌道包囲の理想形だ」
「分かっているとは思うが、帰るまでが遠足だ!勝利の宴に参加しないうちにヴァルハラへの抜け駆けは許さんぞ!」
「カンネー以来の大規模包囲戦か。帝国軍は戦士に不滅の金字塔を打ち建てたわけだ。おもえば戦禍に身を浸す軍人という存在は、時として常識を失いがちだが、平和さえ戻ってくれば全ては日常によって置換されるはず……だから、もう少し、もう少しの辛抱だ。この一撃で、あとわずかで、戦争を終わらせられる!」
ハンス・フォン・ゼートゥーア
「これで戦争芸術の歴史に我々のページが追加されるな」
クルト・フォン・ルーデルドルフ
「ああ、この一撃。この一撃で戦争が終わる!」
第11話 抵抗者
ターニャ・デグレチャフ
「捕捉された以上は追撃される! ケツを掘られるよりはマシだ!」
「今動かねば、後世の歴史家から怠慢だと言われかねません」
「我々は、我々は、戦争を終わらせる機会を逃したんだぞ」
アンソン・スー
「主よ、我に力よ」
「主のお導きだ」
第12話 勝利の使い方
ターニャ・デグレチャフ
「確かに、我が軍は実に見事な勝利をおさめました。今や世界の誰もが、わが国の勇士に瞠目するしか無いでしょう。帝国の勝利と栄光も、この瞬間だけは本物なのかもしれません」
「勝利、それは何とも魅惑的であります。誰もがその美酒を口にしたいと思うのが当然です。しかし、なぜ参謀本部はその勝利を活用なさらないのでしょう?」
「参謀本部の皆様は、あまりに合理的すぎるのです。ゆえに、完全に見落としておられるのです。人間という存在が、合理性だけでは動かない、愚かな生き物であるということを」
「私は見てきました、憎しみに囚われた燃えるような人々の目を。優秀な部下が怒りに身を任せ、冷静さを失った瞬間を。憎悪のみに突き動かされる復讐の連鎖を。そして小官は気づいたのです。いや、気づいたというより、思い出したと言うべきかもしれません。私は以前、合理主義に対する狂気的な反発を身をもって経験しました。いかに近代化が進もうとも、いかに社会規範が浸透しようとも、人間は時として合理性よりも感情を優先する愚かな存在であるということを。憎悪に囚われた人間は、打算も、合理性も、損得さえ抜きに、どこまでも抗い続けます」
「だからこそ、小官は申し上げずにはいられないのです。我々は仮初の勝利になぞ酔いしれるべきではない。憎悪の火は全て消し去らねばならないと」
「帝国は絶大な軍事力、卓越した戦術と優れた機動力により、ダキア公国、協商連合、侠和国を圧倒。安全保障上の脅威を次々に退け、誰もが随喜した。だが、それゆえ彼らは想像しえなかった。帝国が強大無比な覇権を大陸中央に確立するという事実。その事に対する、周辺諸国の根本的な恐怖を」
「帝国は自ら握った剣の鋭さを誇示するあまり、その剣に対する恐怖を想像しえないでいたのだ。無論、誰もが平和を願っている、そう、あれかしと。それゆえ皆、平和を守るために銃を取り、平和を願って戦いに身を投じる。過酷な戦争を終わらせるべく、帝国以外の誰もが願っていた。帝国という邪悪な敵が、この地より撃滅されんことを」
「かくして、なんたる矛盾だろうか。皮肉なことに、平和への願いによって戦争は鎮まるどころか激化の一途を辿っていく」
「くそったれの神に、我らが戦場は不似合いだ! 今こそ神の仕事を肩代わりしてやろうではないか! 我ら将兵のあるうちは、我々が神にとって代わるのだ! 傲慢な神とやらを失業させてやれ!」
「では戦友諸君。戦争の時間だ!」
エーリッヒ・フォン・レルゲン
「いくら軍神マルスに愛されてるとはいえ、さすがに傲慢だろう」
「貴官は卓越した先見性と判断力を有した類稀なる将校だが、やはり人間の本性は変わらないというわけか」
「貴官は、我々人類が未だ理性を欠いた獣だとでも言いたいのかね」
「僭越ながら申し上げますと、あれは幼女の皮は被った化け物です!」
ハンス・フォン・ゼートゥーア
「結局のところ、敵を倒しきれなかったことが問題であろう」
「我々は、何かを間違っていないだろうか。南方作戦とて、これ以上の参戦国が増えないことを前提にした計画だ。もし、仮に更なる国が戦争に参加するとなると……」
メアリー・スー
「宣誓! 私は守るべき平和のため、何より大切な家族のため、力の全てを費やします! もう二度と帝国によって、家族を失う悲しみが繰り返されない世界をつくるために! そして、神の正義を成すために! 主を信じる善良なる心に誓って! 神の御加護をあらんことを!」
劇場版 幼女戦記
人物
ターニャ・デグレチャフ
「だが今は生き残るのが先決。必要が必要であるがゆえに」
「帝国に栄光を」
「諸君、共産主義の跳梁跋扈を許すな。銃をとれ、奮起せよ、宝珠を握りしめるのだ!」
「(正直、戦争なんて大嫌いだ。人間同士の殺し合いなど人類史上最悪の営みだとすら思う。資源と人的資源の浪費の他ならない、だが相手はコミーだ。個人の自由を侵害する全体主義者だ。コミーと共には天を仰げない。安全な後方で順風満帆な人生を送るためにも、銃をとらねばなるまい)」
「額面戦力よりも中身だ。共産主義者は党の正しさを前提とする、軍事的合理性よりも政治が優先だ。逆らえば粛清だろうよ、そんな軍隊、軍隊だとでも?」
「戦友諸君、我らが祖国は何をした? 答えは単純。我らは何もしていない、何もだ。だが連邦は我々をぶち殺そうと殴りかかってきた。良き隣人であることなど不可能だ! この世は理不尽な存在なばかりのようだ。奴らが我々の権利を侵害するならば、戦わねばならない! 私は何よりも自由を愛する、自由を獲得し、自由を擁護し、自由を守り抜く。断じて退くわけにはいかない! 戦友諸君、自由のための闘争だ!怯むことなど許されない!コミーどもにはお帰りいただくぞ!必ずや勝利を!力ずんば死を!我らこそが祖国の門番だ!」
「戦争に個人的だと、馬鹿馬鹿しいにもほどがある!」
「仕事だ、感情は抜きだ。理性に基づく自由意志において、……殺そう」
「神よ、罪深き我らに許しを。願わくばかの者をみもとに導きたまえ」
「獣め、とても付き合ってられん。さよならだ」
「できれば殺したかった、いや殺すべきだったな」
「帝国は閣下の拳と同様、傷ついているのです。血が流れすぎているのです」
「戦争とて、政治です。外交手段の一つです、よって戦いを適切に終わらせることが出来なければその先に待つのは、次なる戦争のための単なる準備期間。あらたな愚行の始まりかもしれません!……あるいは、全てを破壊の炎で焼き尽くし、あとに残るは焦土と化した大地のみやもしれません。たとえ、世界を制して超大国に成りえても、また違った形の争いがうまれるばかりでしょう。栄光のさなか、背後の一突きで全てを失うこともある世の中です」
「閣下の仰る通り、まずもって勝利が全て。しかし、正しく勝たねばなりません。でなければ、いずれ歴史に笑われます。戦争はどう勝つかが重要なのです」
「神の突きつける過酷な運命とやらに従う道理など無いっ! 唯唯諾諾と神に救いを求めるなんてありえんっ! 配られたカードを活用して己の未来を掴み取るっ! それが人間の特権だっ! 人間の条件なのだ! 残念だったなあ~存在X」
エーリッヒ・フォン・レルゲン
「斯様な経験者からの上申です。清算は十分、ただ政治が許容するかどうかの確認でしょう」
クルト・フォン・ルーデルドルフ
「随分と悠長なことだ。貴官は一つ、忘れているらしい。戦争のやり方というのはな、こうやるのだ!! 衝撃力だ! 我々帝国にはその力がある。戦争とは小賢しさではなく、意志の問題だ。覚えておくといい」
アーデルハイト・フォン・シューゲル
「ただ、神の御意思に思いを馳せるならば、世界を戦争へと突き動かしたのは、帝国に対する耐え難い恐怖だと言えるかもしれません。……ええ、つまるところ、感情です! ある者は恐怖し、ある者は憎んだ、ある者は信頼し、ある者は執着した。誰もがその心を感情に支配され破滅の道を進んでいったのでしょう。剣をとる者は皆、剣で滅ぶように」
メアリー・スー
「奴らの行為を見過ごせません。出撃します!」
「例え、主義主張が異なっていても友軍が戦うならば肩を並べる。それが軍人ではありませんか?!」
「平和のために!正義のために!」
「銃で撃たれるのは痛い、お父さんの銃だともっと痛い。優しかったお父さん、あいつはお父さんの仇、あの悪魔だけは許さないっ……神様、神様、どうか、私に力を」
「死ねえ!お父さんの仇だ!」
「どうして、どうしてなの? お父さん」
ウィリアム・ダグラス・ドレイク
「帝国という単一の悪に対抗するため、全世界に架けられた虹のように多民族が結集、とのお題目で」
「軍人を語るならば、まず命令を守れ!」
「無能な働き者か、厄介な」
「兵士であるならば、敵と仇を混同するな」
サー・アイザック・ダスティン・ドレイク
「敵の敵は味方というわけだ。本国の政治家連中に、代わって仲良く肩を組んでるよ」
「全く、上はいつもアイディアだけが先走る。人類の進歩と普遍性を象徴する部隊、だったか」
「狼と握手するのは億劫である。だが、羊を率いてライオンと戦争するよりはマシだ」
「世界は舞台だ。誰もが何か役割を演じなければならぬ。……だが、私である必要もあるまいて」
閑話「砂漠のパスタ大作戦」
人物
ターニャ・デグレチャフ
「パスタを茹でるのに、飲み水を使い果たしたなど、笑い話にもなるまい。絵に描いた餅、空に浮かぶパイと同じだよ」
「やはり、パスタはソースやスパイスがあってこそだな」
「報連相の徹底はいつの時代でも有効。官僚的な保身措置は怠らないようにせねばな」
「なんにせよ、我々に必要なモノはいつでも遠くにある。それを手にするために、働き続けなければならない。よって、これより『砂漠のパスタ大作戦』決行だ」
「砂漠でかくも豊かな食事がとれるのは、一時の偶然だろう。だが、その偶然が部隊の人員にゆとりと人間性を回復させている。素晴らしいことだ」
「食事は大事だな」