日本統一31
氷室蓮司
「こいつには敵わねえなって思う時があるんだ」
「ヒマだけどよ、俺たちがココにいるってだけで、ケンカ売ってるのと同じことだ。鶴見も相当イラついてるよ」
「今やらなきゃならねえのは、横浜から丸神を追い出すことだ。それまでは神戸には帰らねえ」
「だからって、チャカ向けるようなバカじゃねえよ、あいつは」
田村悠人
「故郷に錦ってやつだよ、おめえも長えこと苦労したもんな」
「今夜あたり、ココにカチコミに来ねえかなあ」
「考えてみたら当たりめえだけど、ああいう使い捨ての奴にも家族いるんだよなあ、なんか嫌な気持ちになるぜ」
川上章介
「いえ、苦労だなんて思ったことありません」
三田太源
「人が居ねえのは向こうも同じだ。だから、跡目が立てられねえ。先に看板上げたほうが有利に立つ。わしが言ってるんだ」
沖田学
「横浜の藤代組といえば、カタギにも名の通った金看板。その金看板を侠和会から取り返す」
鶴見憲吾
「そういう打算や損得勘定抜きによ、極道としてのおめえの肚聞いてんだよ。俺は!」
「俺はこの国に何かしてもらったことなんか一度もねえよ」
中森義雄
「俺は藤代を出るとも言ってねえぞ、いいか。戦争になったら、どっちが勝つか分からねえんだ。うちはただ様子を見て、勝った方に乗っかりゃあいいんだよ」
岡部清澄
「え? ああ、そこはあれだ。バカなヤクザの兄貴を持ったと思って諦めてくれ、だから金貸して!」
堀井謙介
「江戸時代、お上は土地の親分に、十手を預けた。その名残がいまだに残ってる。当時から十何代も続く一家は関東にはゴロゴロあるだろう。関西や他の地域のヤクザとは別物なんだよ」
「……俺は、兄弟を長い懲役に行かせたくねえんだ」
クワバラ
「それに、このわしが言うのもおかしいけど、あんたも氷室もパクられて、侠和会がガタガタになったら、日本中の極道がまた戦国時代に逆戻りや。不良外人かて湧いて出てくる、そこんとこよう考えや」
日本統一32
氷室蓮司
「兄弟。俺みてえなヤクザにお国のためなんて資格はねえし、外国人だから許せねえってわけでもねえ。ただ人間として、こいつらが許せねえんだ。相手が日本人でも同じことをするやつは、やっぱり許さねえ、力で抑え込む」
「慰めの言葉なんかいらねえよ」
「俺たちと関わっても、あの子にとって良いことなんて一つもねえんだ。ヤクザと関わんねえですむなら、そのほうが幸せなんだよ」
川谷雄一
「思うツボもクソも、すっかりタコ壺ハマっとるやないかい」
三田太源
「東北、北陸、名古屋、うちのシマ、全部取り戻す。頂上作戦だ。丸打組と水神会、ひとつにまとまるまで多くの血が流れた」
「どんな手を使ってでも、丸神を守らにゃ死んだもんに申し訳がたたん」
「もうすぐ、長い懲役から帰ってくるやつらにも席を用意してやらにゃあ。…………わしの目が黒いうちは関東は守り抜く」
「……氷室ってのは、不思議なやつだ」
「秋本や若宮、それに鶴見まで、みんなのぼせちまう。殺すには惜しい男だ」
沖田学
「会長、手を汚すのは俺の役目です。会長は……」
「だからこそ、生かしておけないんですよ。俺が手を汚します」
鶴見憲吾
「だけどな、おまえと棟方の兄弟が、別々の道に分かれちまったことは誰のせいでもねえ。てめえの責任逃れするわけじゃねえが、……俺はそう思ってる」
「慰めてなんかいねえよ、本当のこと言っただけだよ。その遺書はおまえに預ける。丸神宛てのもう一通は、俺が三田会長に届ける」
「兄弟の遺言だよ、やっぱり隠しておけねえ」
「氷室は被害者だ。俺が証言する。必要なら書類でも、なんでもハンコついてやるよ」
「そうやって、俺も棟方の兄弟みたいに弾き出すつもりですか」
棟方龍治(遺書
「氷室蓮司殿。川谷雄一殿。長年にわたり、おかけ頂いたご厚情に深く感謝いたします。特にこの度、行き場を無くした私を受け入れていただいた御恩につきましては、言葉になりません。ただ、私は極道として、決して許されぬ逆縁の大罪を犯しました。この件につきましては、私の一命を持って償うほかないと判断するに至りました。なお、気がかりは残される藤代組若衆一同の行く末です。私に代わり、侠和会の末席に加えて頂ければ幸いです。誠に勝手ではございますが、どうぞお聞き届けください。氷室蓮司殿。川谷雄一殿。お許しください」
堀井謙介
「だからって、同情する必要はねえ。こいつらのしてきたことを警察で聞いたが、……思い出したくもねえ。こいつら人間じゃねえ」
「兄弟は本当に日本の任侠界を統一するかもしれないし、またその事にも意味があるってもんだ、ああやっぱり兄弟になってよかったよ」
翁
「……言い訳しない、ころせえ」
「…………すまなかった。あんたの言う通りにするよ、もう逆らわない。中華街の中だけで商売するよ!」
みなみ
「うちの亭主はクズなんかじゃあありません! 組の人たちかて、みんな!」
日本統一33
氷室蓮司
「いいか、丈治。土岐がどういう男か、自分の目で見届けてこい」
「いつまでも甘ったれてるんじゃねえ! いう通りにしろ」
「金渡したからって、勝てる保証はねえけど、今はやれることは全部やらねえとな」
田村悠人
「おい。ふけたってよ、パクられる時はパクられるんだよ。だったらよ、ギリギリまでおまえと一緒にいるよ」
「ああ?金権政治批判してるやつが金寄こせって、なんかおかしくねえか?」
「そんなやつが選挙に勝って、約束守るなんて当てになんねえだろ?」
権田稜一
「これでもう供述とれんぞ。はは、ざまあみやがれ!」
土岐匡平
「名古屋の責任者はわしじゃあ! これで文句無いやろ!」
辰巳龍三
「肚も何もねえよ。あの場で、俺につっかかってきたおまえを見て、こいつとなら組めると思ったのよ」
「寝言じゃねえよ、俺は本気よ。おまえに先代の返しを封じてんのは、同じ水神の沖田で、おめえ、律儀に義理立てして耐えてんだろうが。肚ん中どうなんだよ?」
「そんなケチな話じゃねえよ!! てめえ自身のことだってどうだっていい。俺はただ三田の親父に……日本一の親分になってもらいてえんだよ」
「この渡世はな! 筋を通さねえ忠義っていうのがあるんだよ!」
「侠和会が日本統一なんてほざくなら、こっちも全国制覇目指して何がわるい」
菊村重政
「おもしれえからよ、気に入ったっつってんだよ。のせられてやるよ」
河本慎吾
「あんたも平川も、極山に唾吐いて出た人ですから、俺はあんたら二人とも神農のクズだと思ってますよ」
イトナカ社長
「あなたほどの方が、当社を頼るということは、よほどのことでしょう。金で済むことなら、いくらでも協力します」
「当社が今日あるのは、あなたが乗っ取りを防いでくれたおかげ。あなたがお困りの時には、万難を排して恩返ししろ。父は最後まで言ってました、やらせてください! 父のためにも。あなたが断っても援助させてもらいますよ」
日本統一34
氷室蓮司
「沖田さん。こんなやつらのケツ拭かされてるアンタには同情するよ」
「ああ、最初から政治家を頼りゃあどうにかなるなんて思ってねえよ。丸神の内部に亀裂が走れば、そこから親父を取り返す、突破口が見つかるかもしれねえ」
「日本から抗争を無くすためです」
「それでもやり遂げてみせます、ただの理想でないということを、いつか会長にも分かって頂けると、自分は信じてます」
「丸神会とは国家の介入なしに、お互い極道として、堂々とやり合いたい、そう思っています」
「しょうがねえじゃねえか。次なんかあったら、また一緒にやろうぜ」
「やっぱり、おまえの顔見てやっと落ち着いたよ」
田村悠人
「あ~くそ、一番大変な時に、何にもできなかったぜ」
「あいつなんとなく長生きするっつうか、死ぬ気がしねえもんな」
平川進
「俺は侠和会を抜けてでも、兄弟の仇をとらせてもらうぞ。会を守るために、俺とおんなじような考えしてるやつは、他にいくらでもいるんだ」
「おまえ、そういうこと言わなけりゃあカッコイイのになあ」
植木尚人
「ああ? 違うよ、兄弟と一緒に伏せようと思ったら、間に合わなくて弾当たっちまったんだ、イテテ…」
中島勇気
「泥は山崎一門でかぶる、これ以上聞かんでくれ」
権田稜一
「なあ兄弟、聞いてくれ。わしは会長を売らんかった。最後まで売らんかったでえ」
「会長に会うて、カシラや田村のアニキにみんなに会うて、良かったわ。おまえと兄弟になれて、ホンマに良かったわ!!はははは、楽しかったでえ!」
三田太源
「そんなものは理想だ。組織がデカくなれば、派閥が生まれる。現に侠和会は今まで何度も内部抗争を繰り返してきた。それが悪いとは言わん。民衆党の総裁選を見ても、分かる通り、組織があれば、争いがおこる。人間とはそういうもんだ。おまえが言ってることは、理想だ」
沖田学
「俺が正しいことを証明してやる。どんな手を使おうが、ようは侠和会を抑え込めばいいんだよ」
「我々は侠和会に勝ちました。会長と私のやり方で」
辰巳龍三
「今は攻める時だ! うちが日本の極道界を、統一するんだよ!!」
日本統一35
氷室蓮司
「あの人がヘソを曲げるとやっかいですから」
「平川と同じじゃねえか。そういう相手には、小細工無しでぶつかるしかねえんだよ」
「この先あのじいさんがうちに入るとは思えねえんだけど、ああいう人もいてもいいというか、居てほしいんだよ」
「まあどっちに転んでも、あのじいさんなんとかしてやろうぜ」
「でも今はやらなくて良かったと思ってる、生きてるうちに、もっと話しておけばよかったとさえ思ってる」
「自分にもヤクザの父親がいました。母は一人で死にました。俺もグレてやくざになっちまって…ですが総長。そんなやつはこの世界にいくらでもいます。やくざの俺に言う資格ありませんが、どう生きるかは本人の責任です」
田村悠人
「蓮司、だめだよ。相手じじいだぞ。老人虐待になんぞ」
「おまえは、いつからそんな冷たい人間になったんだよ」
川谷雄一
「人生劇場そのまんまやないかい」
坂口丈治
「……一度も親を憎まんかった、いうたら嘘になります。カタギの家に産まれとったら、世間の目も違うとったやろ。銭送るだけで何が父親や、いうて。せやけど、おとん。川谷会長はわしを極道にしとうなくて距離を置いとるんや、そう気づいてからは……」
植木尚人
「そうなんですよ、だからとっつあんは平川の兄弟、可愛がってたんですよ。俺もなんだかんだで、あのじじい憎めなくて」
春日巳代松
「わしは縁日にくる子供たちの笑った顔が好きだ。子供たちを楽しませる露天商に、安心して売をしてもらいたい。わしはそのことだけを考えて、神農道を貫いてきた、今日まで。邪魔するやつは絶対にゆるさん」
「なんでもかんでも力でカタをつけようとしやがって! おまえらはな、博徒でもなんでもないんだ! 愚連隊だよ。ただの暴力団だ!」
「それでも、わしがやらなきゃならん。あいつは河本を殺した。河本は出来の悪い子どもだった。植木にも平川にも迷惑をかけた。それでもわしにとっては、かわいい子どもだったんだ。良い人間ではなかったが、わしの子どもでなければ、こんなに早く死ぬことはなかった。康雄も、塚原康雄も、わしの子どもだったから、河本を殺した。人殺しの道に堕ちたんだ」
「誰のためでもねえ、俺のためだ。男ってのはてめえのケツはてめえで拭かなきゃならねえ。おまえなら分かってくれるはずだ」
三田太源
「二人ともよせ。沖田、前にも言ったがお上とベタベタすんのはもうやめだ。売られたケンカは買う。当たり前の極道に戻って、侠和会と白黒つける」
日本統一36
氷室蓮司
「俺たちにとって、叔父貴はいつまでも叔父貴なんですから、そう呼ばせてください」
「叔父貴こそ、組抜けた人間や前科者を雇って、立派なカタギに育ててるんですから、ほんとに敵いませんよ」
田村悠人
「真人間って俺たちヤクザっすよ。まあ、イキッてたクソガキの頃よりはまっとうなヤクザに育ててもらいましたけどね」
「俺たちヤクザが何言ったってムダなんだよ、世の中は」
三上哲也
「けど、おまえらほんま、ええ男になったなあ。みんなおまえらみたいに真人間になってくれたらええのになあ」
沖田学
「うちはシャブはご法度だ。会長が絶対に許さねえ」
日本統一37
氷室蓮司
「それじゃあ叔父貴の努力が無駄になるじゃねえか。やくざになんかならないで済むなら、そのほうがいいんだよ」
「叔父貴。叔父貴には前科者を更生させる立派な仕事があるんです」
田村悠人
「でも不良の根性叩き直すには、やくざか自衛隊って相場が決まってたのに、厳しい世の中になったなあ」
川谷雄一
「兄弟。つらいことやが、認めるしかないで。大宮を死なせたわしら全員の罪として、向き合うしかない」
三上哲也
「隼人。おまえの父ちゃんな、あっちゃこっちゃで、人をどつき倒して世間で白い目で見られて、けどな、嘘だけは言わんかったで!! 嘘はつかんかった!」
辰巳龍三
「なんだよ、言ってくれるじゃねえかよ。……ありがたく、受けさしてもらうぜ」
「俺は、これからもおまえの兄弟で…!!」
菊村重政
「新幹線、新幹線ってガキの遠足じゃねえんだ、このやろう!」
「おまえは会長の子飼いだし、それが一番良い! 俺はな『三田の会長を日本一の親分にしてえ』って、おめえの言葉にのったんだよ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか、おまえは残れよ、俺はこれからおまえの為に、裏の実行部隊としてやらせてもらうよ」
日本統一38
氷室蓮司
「俺たちと、沖田小野寺、菊村の敵が勢ぞろいじゃねえか。あいつにはしがらみも筋もねえんだ。必ず仕掛けてくる」
「二人ならなんとかなるか……そうだな、あまり考えすぎないほうがなんとかなるかもしれねえな」
田村悠人
「俺一人じゃあどうにもなんねえけど、俺は蓮司と一緒なら、なんとかなると思ってるぜ!」
川谷雄一
「わしが死んでも侠和会はビクともせんわ! 氷室がおる! 田村もおる! 他の若いもんも、おどれら如きが太刀打ちできる相手とちゃうわ、ぼけえ」
菊村重政
「こっからはまた禁じ手よ。なんせ俺はもう、極道でもなんでもねえからよ」
川谷美南
「あんたら、こんな卑怯なことして恥ずかしくない?! それでも男なんか!!」
日本統一39
氷室蓮司
「責任を持って処分、どういう意味ですか? 場合によっては」
沖田学
「菊村は、川谷会長の身内まで巻き込んでんだぞ! 俺たちはマフィアや愚連隊じゃねえんだ。そんなことが許されるわけねえだろ!」
小野寺和昌
「もうゴタゴタはうんざりなですよ」
辰巳龍三
「このイモひきが。てめえはテキヤらしく、屋台でたこ焼きでも焼いてろよ、ばかやろう」
岩尾英輔
「なんせ沼津の田舎者でして、右も左もわかりません」
菊村重政
「こんなところで死ねるかあ!!! 人間を強くするのは、兄弟! 復讐心だ!! そうだあ! 愛は地球を救わない!!」
日本統一40
氷室蓮司
「利口ならやくざなんかやってねえよ」
三田太源
「沖田、おまえの言いたいことは分かる。おまえには苦労をかけて、本当にすまないと思ってる。だがな、二人にも聞いてほしい。わしら、やくざの社会ってのは、いわば家族だ。どんなに出来が悪くても、子どもは子どもだ」
「菊村。男らしく、腹を斬れ。龍三、おまえもだ。せめて最期は男で終われ」
迫田常夫
「いいわけすんじゃねえよ、結果が全てだろう」
「侠和会の川谷、氷室、田村。同じ条件で西日本をまとめあげた、大した器量だよ」
岩尾英輔
「お分かり……ですよね? 親に背いた人間を処分しないわけには、いきませんよね」
辰巳龍三
「言われなくても、神戸にカチコミかけるつもりだったんだよ! 罠だとしても行ってやるよ!」