第1話 泰平の誓い
三角 青輝
「わしはただ、合理的かどうか、そこに己の判断の基準を置いとるだけです。日本時代末期、結婚式はキリスト教式、葬式は仏教式、ほんで正月には神社に参拝する神道式でした。つまり、日本人と宗教は密接な関係じゃったんです。じゃけど、今の世は違う。宗教的に一切関係のねえ小紀が、ウェディングドレスを着ようとするのを止めるのはしごく当然のこと、それを小紀ときたら『かわいいから着るんじゃ』……はああ~~ってなるでしょうが!」
「わしはここから見える景色が好きじゃ。山や海、人工地盤、日本時代の工場やビル、舗装されたたくさんの電柱、日本はすんげぇ文明だったんじゃなあ、と」
「戦において、地形を利用することの重要性を問いとる」
「わしは、小紀とこのまま普通に暮らせればええ」
「情けなくなんかねえ。戦に勝つためには、侍たちが強くなければならん。そのためには、何が必要じゃと思う?」
「それより、もっともっと大事なもんがある、食べもんじゃ!栄養価のある食べもんを多くの侍たちに与えるためには、農業生産力が高くなくてはならねえ。つまり、国を強くするためには、農業じゃ!何度でも言う!おまえらは情けなくなんかねえ!」
「そんな、こと、しても根本的なことは何にも変わらん。勇気があるのは尊敬するが、少しは己を律することを覚えろ」
「意外と弁が立つなあ、と思いつつもわしならあと2ターンあれば対話でなんとかできとった」
「無事でよかった、ほんまに」
「いや、農業に熱い思いはねえ。わしはただ小紀との生活を安定させるために、何をすべきかを考えて、手堅い司農官になるべきだと思っただけじゃ」
「読むたびに新しい気づきがあるんじゃ。でも知識があるだけで、わしに実戦の経験はない」
「絶対、違う」
「殺す。まず税吏の刀を奪い喉元を掻っ切る、殺す。次に平殿器のきったねえ腹を刺し、殺す。わしは殺されるけど、もうええわ。小紀だってあんなデブ殺すしかねえって、言うてたし。え?ちょっ……一旦落ち着いて、そんなことしても国賊の汚名を着せられて処刑されるだけ。ほんでまた、平家の誰かが執権し権勢を振るうだけ。怒りに任せ、復讐を果たせたとしても小紀を生き返らせることはできん。今、わしがすべきことは一つ。小紀の首を受け取ること」
「ほんじゃあ、いってこい。小紀」
「世を変えるために」
東町 小紀
「うちは、ウェディングドレスがかわいいから着るんじゃ!」
「たとえば、戦?とか」
「そう、あんたの知識を活かせば、辺境を平定し、三国時代を終わらすことができるかもしれん!日本再統一も夢じゃないで!」
「首都大阪にある、そのお方の家には士官を望むもんが、毎日1000人あまりくるっていう噂じゃ。そんお方のもとでなら、あんたの智謀を存分に生かすことができると、うちは思う!」
「青輝、あのデブを肯定する言うんか」
「あんなデブ、殺すしかねえ」
「青輝、あんたは勇気を持つことを覚えろ」
「いや、自重できん」
「恐れながら申し上げますと、原則として税は軍ごとに管理され、月末に一定量納める決まりでは?」
「家の力が無ければ、何にもできんクズめ」
「性別や出身地、肌の色やルックスしかり、そんなもんで他人にマウントをとる人間をうちは軽蔑する。己の価値は、己の手で作り出してくもんじゃ」
「あんたらも、ただやられるだけでええんか!」
「でもうちは武で奴らをなんとかした」
「うちは青輝が何をすべきかよりも、何をしたいかが知りたい」
「実戦のために役立てんと、何のための知識じゃ。今のあんたに、足りとらんのはたった一つ、勇気じゃ。青輝に勇気さえあれば、日本を統一してこの三国時代を終わらし、太平の世を築くことができる……うちはほんきでそう思っとるけん」
平殿器
「己の嫁の仇を目の前にして、憤激の情を一切見せひん、不思議な若者じゃ。私と会話してるはずなのに、彼の目は遠に先をみとりおった」
ナレーション
「令和末期、第四次産業革命において、日本は米国や中国、インドなどの諸外国に圧倒的大敗を期した。そして、加速する少子高齢化、教育レベルの大幅な低下により、日本は衰退の一途を辿った。世界では核大戦が勃発。日本は戦地にこそならなかったものの、多くの難民が押し寄せ、感染症が蔓延、さらには大震災が相次いだ。一方、富は一部の政治家や資本家などの上級国民と揶揄される者たちに集中。悪政、重税、天災、飢饉に苦しむ民衆はついに蜂起する。暴力大革命である。国家形態は崩壊、人口はわずか数年で1/10以下まで減少し、あらゆる文化やインフラ、テクノロジーが失われた。文明は明治初期レベルまで後退、軍閥が割拠する戦乱の世が始まる。そして、90年後、大和、武凰、聖夷、3つの国が覇権を争う三国時代に突入することとなる」


