極道の紋章レジェンド 第十一章
ブラックマター
【屋上】津浪、前崎
- ブラックマター:目に見えない物質
津浪「星の動きを計算すると、銀河から飛び出しそうや。しかし、星は銀河の中にある」
前崎「何でですか?」
津浪「ブラックマターや」
前崎「ブラックマター?」
津浪「目に見えない物質。その重力に引かれて、星は留まっとる」
前崎「目に見えへんのですか?」
津浪「わしらも、見落としとるもんがあるかもしれん」
極道の紋章レジェンド 第十二章
人間の目で距離を判定できるのは……
【津浪事務所屋上】津浪、芝村、前崎
「道場組と弘和会はやって行けるのか?」に対して…
津浪「徹雄。星座は並んでるように見えるやろ?」
前崎「はい、並んどるから星座になってるんやないですか?」
津浪「人間の目で距離を判定できるのは、1キロ以内や」
芝村「1キロ以内?」
津浪「おお、それより遠いもんは距離感がわからんようになる」
前崎「そんなもんなんですか…」
津浪「星座の星は、同じ方向を向いてるだけで距離は離れとるんや」
前崎「バラバラ言うことですね」
津浪「ある星に関しては、地球より離れてるもんもある」
芝村「そんなに?」
津浪「人間も同じや。仲間と思っとても意外と距離があるかもしれん」
芝村「敵かもしれん、いうことですか?」
津浪「その逆もあるやな」
前崎「敵に見えても、味方かもしれん」
極道の紋章レジェンド 第十三章
連星
【屋上】津浪、前崎
前崎「わしは、間違うとるんでしょうか?」
津浪「芝村も東堂も、それぞれに立場があるってことや。それだけや」
前崎「ほな、わしはわしの立場で」
津浪「ああ、好きにやって構わんのやないかい。しかし、同じ方向を向いてるってことが大事や。肉眼で見ればひとつの星でも、望遠鏡で見たら2つ以上に広がってる星もある。連星や」
前崎「連星……星が2つ並んどるんですか」
津浪「そや、並んでるようにみえて遠く離れとるやつもおる。見せかけの連星や」
前崎「見せかけ……」
津浪「本物の連星は常に近くにあり、お互いの重力で引き付けあっとる」
前崎「絆があるんですね」
津浪「敵にもいえることや。きょうから繋がりがあるか、見せかけだけか、っちゅうことな」
極道の紋章レジェンド 第十四章
火星
【屋上】津浪、前崎
- 前崎:相手が分かっているのに返しができない!
- 津浪:これから極道はケンカができない時代になる。
津浪「火星や。古代の人は血をイメージして戦いの神、マーズとよんだ。火星には2つの衛星がある。フォボスとダイモスや」
前崎「フォボスとダイモス…」
津浪「ギリシャ神話から名づけられた、狼狽と恐怖という意味や」
前崎「戦いには、狼狽と恐怖が付きもんとわけですか」
津浪「まあ、戒めやろうな」
前崎「なるほど。慌てず、恐れずに、戦えと」
津浪「いくら締め付けが厳しくても、戦いは避けられん」
極道の紋章レジェンド 第十五章
星雲と暗黒星雲
【屋上】津浪、前崎
前崎「宇宙にも雲があるんですか」
津浪「星雲や」
前崎「星雲……」
津浪「ガスとチリが集まって、近くの星の光を反射してるんや」
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前崎「なんか真っ黒なとこがありますね」
津浪「ああ、暗黒星雲や」
前崎「暗黒星雲……」
津浪「ガスの成分が高くなると、光を吸収して黒い雲のようになる。さらに密度が増すと、周りの物質を集めて核になる。そして、やがては星になるんや」
前崎「暗黒の中から、星が生まれるんですか?」
津浪「わしらの世界も同じやろ」
前崎「そうですね、今回のマフィアといい、どっから敵が現れるか、わかりませんね」
津浪「そや」
極道の紋章レジェンド 第十六章
星の寿命
【屋上】津浪、前崎
- 前崎:岡島の兄弟である「溝口」が出所した。
津浪「星にも寿命があるのは知ってるか?」
前崎「死んでまうんですか?」
津浪「大きな恒星はやがて燃え尽きつぶれてしまう。その時、ガスやチリを出し、それがまた引き合って塊を作り、なんどかの衝突で、新たに星を作る」
前崎「新たな星が生まれるんですか……」
津浪「わしらも一緒やろ」
前崎「抗争で組がつぶれても、新たな刺客が……」
極道の紋章レジェンド 第十七章
伊達政宗の辞世の句
【屋上】津浪、芝村、前崎
津浪「『曇りなき心の月を先立てて浮世の闇を照らして行く』伊達政宗の辞世の句や」
芝村「伊達政宗は、東北の戦国武将ですね」
津浪「ああ、産まれてくるのが早かったら天下を獲ったと言われてる」
前崎「心の月、て」
津浪「信念や」
芝村「信念……」
前崎「天下を獲るには、己を信じるしかない。いうことですか」
津浪「戦争には、腕と度胸が必要やが、時には権謀術数を駆使することが必要や。しかし、一番大事なのは、己や」
前崎「わかりました、東北に行きます」
極道の紋章レジェンド 第十八章
太陽もいずれ死ぬ、人間の一生はちっぽけ。
【屋上】津浪、前崎
- 相良、寺島らが亡くなって……。
前崎「まっすぐな男たちの身体張った想いが踏みにじられる。そんなこの世界のどぎたなさを目の当たりにすると……」
津浪「死は誰にも訪れる。月は太陽の光を反射してるが、その太陽もいずれ死ぬ」
前崎「太陽がなくなるんですか」
津浪「そや、50億年後と言われとる」
前崎「50億年後……」
津浪「ま、太陽が無くなれば、我々も生きていけん」
前崎「せやけど、とてつもなく先の話ですね」
津浪「太陽の寿命に比べれば、人間の一生なんてちっぽけなモンや」
前崎「そのちっぽけな人生をもがきながら、戦っとるんですね」
津浪「そうや。どうやって生きてくかってことや」
前崎「敵とはいえ、相良や寺沢は己に忠実に生き死んで逝った」
津浪「そう想ってやれることがはなむけになる」
極道の紋章レジェンド 第十九章
宇宙に飛び出すには、相当なエネルギーがいる
【津浪事務所】津浪、前崎
- 【横浜】東堂が弘和会から襲撃を受けて。
津浪「空と宇宙の境目は、どの辺にあると思う?」
前崎「それは、空気が薄なるとこやないですか?」
津浪「地上から100キロあたりが、空気が薄くなってくる」
前崎「大気圏いうやつですね」
津浪「ああ、大気圏を突破して宇宙に飛び立つには、飛行機のスピードではダメや」
前崎「せやから、ロケットで」
津浪「ああ、外に飛び出すということは、相当なエネルギーがいるっていうことや。……黒岩は睦会を連合組織にする」
前崎「東堂の叔父貴を狙ったのは、その布石。当然、黒岩はトップに立つ気でしょう。そないなったら……」
津浪「総攻撃を仕掛けてくる。最初は…」
前崎「羽佐間ですね。わしの舎弟になってから、右も左も敵だらけです」
津浪「うちの体制も強化せんとな。敵は睦会だけやない、警察や」
前崎「そうですね、うちが都内入んのを桜田門が見逃すわけあらへん」
津浪「戦争はもう始まっとる、退いたほうが負けや」
極道の紋章レジェンド 第二十章
ドップラー効果
【津浪事務所】津浪、前崎
- 芝村が無事に病院移送が完了して。
津浪「赤い星や、青い星があるやろ」
前崎「ああ、ありますね。星に色がついてるんですか?」
津浪「青い星は地球に近づいてきとる、赤い星は、地球から遠ざかっとる」
前崎「方向で色が変わるんですか?」
津浪「ドップラー効果いうんや」
前崎「ドップラー効果?」
津浪「光の波長の距離によって、色がかわるんや」
前崎「分かりやすいですね、人間はそんな簡単に見分けがつきませんから」
津浪「おお、人の心に色はないしな。芝村の言う通り、備えは必要や。緒方組見てたらよう分かるやろ」
前崎「はい、組長の留守が守りきれてません」
津浪「同じ轍を踏むな。芝村の跡を継げるのはおまえしかおらんからな」
前崎「前に会長と意見が割れた件ですが、東京の羽佐間のことです」
津浪「いやでも戦争になるやろな。芝村も分かっとる」
前崎「ほなら、こっちから攻め込んだほうが?」
津浪「そのタイミングを見極めるのがおまえの度量や」
前崎「タイミングですか……身内の意見の総意に、警察の動き。黒岩のやり口も慎重に巧妙になってきました」
津浪「やつは、必ず動く」