第漆話 宵闇
花葉雛菊
「狼星さまと、凍蝶おにいさま、どんなの喜んでくれると思う?」
「ごめんね、さくら。会いたい、の気持ちがね、どんどん、膨らんでる、の」
「ここが、いっぱいに、なってね。時々、キュウってなる。会いたいな、って」
姫鷹さくら
「冬に土産など不要です、接触する予定も一切ございません」
「(怖い、会ったらどうなってしまうのか。自分が分からない、凍蝶)」
祝月撫子
「竜胆はわたくしの王子様ね」
「私の名前、撫子は秋の花よね!」
「やっぱり!お揃いよ、お花の名前!初めてのお揃い!」
「竜胆のお菓子、残しておくわね。りんごのタルト!」
「私のこと、1秒も忘れないでね」
「竜胆、まだかしら。早く一緒に食べたいわ」
(回想)「何から守るの?」
阿左美竜胆
「撫子、あなたが望むならいくらでも」
「あなたは世界で一番大切な姫であり、守るべき最愛の主であり、この大和でただ一人の秋の代行者。……俺の秋」
「あなたのことだけを、毎秒考えていますよ」
「どう考えてもバカは春の従者だろう。代行者は世界に季節をもたらす存在、公人なんだ。護衛官がうまく手綱を握って言うことを聞かせなくてどうする」
「それも仕事のうちだ。……子供だからな、適当に陽を浴びさせて菓子でも食わせて、ごっこ遊びであやしてさえいれば機嫌がいい」
「神通力の精度は、体調や気分の良し悪しで大きく変わる。万全な状態で機能させるためだ」
「撫子を比較に使うのはやめろ」
(回想)「この身を御身に捧げ、守り抜くことを誓います」
(回想)「あらゆるものからです」
「撫子、撫子、撫子、撫子、……俺の秋」
長月礼子
「へえ、フェアリーちゃんにゲロ甘な君がそれを言う?」
「出た!阿左美竜胆、王子様モード」
「それだよ!実際、感情の揺れが神通力に作用するってデータがでてる。代行者の力はまさにお気持ち次第ってわけさ!なのに、嫌がる代行者に大勢の客の前で、アイドルよろしく歌って踊れって、逆効果もはなはなだしい。しかも相手は誘拐被害者だよ、バカは四季庁のほうでしょ。まあ、でも言い換えれば感情の昂り次第で、ものすごい力を発揮するのも可能なわけさ」
「それだけ雛菊様が桁違いだってこと。なにせ、公式記録にはないんだけど、ここだけの話。誘拐した賊の根城を吹っ飛ばして出てきたって噂もある」
「君さあ!婦女暴行事件の被害者にも、抵抗できたはずだって言うタイプでしょう!」
「近寄らないでください、他者への思いやりが死んでるクソ野郎」
「誘拐や監禁、特定環境下における心理、洗脳、トラウマ、事件のショックで心に深い傷を負うこともあるんだよ。周囲の人たちだってね」
「代行者と護衛官は主従関係を結ぶ過程で、強い共依存になりやすいって、論文にもあったけど。自覚無いのかなあ?」
寒椿狼星
「二人が顕現を終え次第、正式に面会を申し入れる。諸々事情が分かって確信した。春の里は信用できん、四季庁もだ。季節の祖である冬が、この俺が、雛菊たちの後盾になる」
「しかし面会だの後盾になるだの、我ながらただの言い訳だな。おまえも本当はさくらに会いたいだけじゃないのか。力になりたいのは本当だ。これから先、今度こそ何があっても、俺が守る。だが、それだけならこれまでのように遠くから見守っておけばいい。雛菊たちのことを思えば、そっとしておいた方が、わざわざ面会したいだなんて俺のエゴでしかない。……でも、10年だ。待ち続けて、探し続けた」
「俺のせいなのは分かってる、会う資格なんてないのも、許されていいはずがないのも分かってる。それでも…………会いたい」
観鈴・ヘンダーソン
「まるであの子みたい」
第捌話 桜雨
花葉雛菊
(回想)「冬の代行者さま。お目通りが叶い、嬉しく存じます」
(回想)「いえ、さくらが頑張っているところを見ていたいんです。お邪魔でなければ」
(回想)「お花とか、お星さまはできますか?」
(回想)「これ、雛菊です。私の名前の花、よかったら」
(回想)「だめ!絶対だめ!狼星さま、諦めないで、逃げて生きるの!」
(回想)「さくら。大丈夫よ、きっと助かる」
(回想)「誰も死んではいけません!そんなこと、絶対にダメなんです!」
(回想)「狼星さまは私の大切な人です!私とまた遊んでくださるんですよね?!……簡単にそんなこと言わないで。私は狼星さまとしか、狼星さまじゃないと。それに死んだあとのこと、狼星さま知らないでしょう。私は知ってます、私のお母さまは狼星さまと同じように死んでなんとかしようとしたから。…ジャマならいなくなればいいって。そうしたら娘の暮らしも良くなる、そう願って。……でも、そうじゃないんです!いくら傷つける人の言いなりになっても、傷つけた人は狼星さまが死んだあと、ただ笑うだけなんです。私知ってるんです!!」
(回想)「狼星さま。今、死にたいわけじゃないでしょう」
(回想)「狼星さま。なら全員で逃げましょう。これは負けじゃありません。全員で逃げて、逃げて、逃げて、耐え忍び、戦機を待つのです」
(回想)「お願いです。さくらを殺さないで、狼星さまを殺さないで。凍蝶お兄さまをもう、撃たないで。……もうやめてください、私が人質になります」
(回想)「冬の代行者を殺しても、代わりの代行者が生まれます。きょうは十分ですよね、お願いです。もう誰も傷つけないでください!」
(回想)「さくら。きっと助かるよ。大丈夫、わたしが守る」
(回想)「凍蝶お兄さま。私、もうへとへとで、これが精いっぱいなんです。さくらをお願いします、お願いです」
(回想)「すごく嬉しいです、狼星さま。狼星さま、一緒に遊んでくれてありがとう。氷の花をくれてありがとう。たくさん優しくしてくれて、ありがとう狼星さま。……きっと私も助かります。だから、また私と遊んでくれますか」
(回想)「狼星さま、お返事必ずします、だから狼星さま。……死なないで生きてくれますか」
姫鷹さくら
(回想)「雛菊さまをお守りするためなのに、里の者が起るのは変です。それに、女だからというのは、時代遅れだと思います。でも、凍蝶さまのお立場が悪くなると困るので、内緒じゃダメですか?見て覚えるので」
(回想)「雛菊さま、雛菊さま行かないで!」
寒椿狼星
(回想)「おまえは、保護者で従者だし。……兄、みたいなもんだろ」
(回想)「……俺の春だ」
(回想)「できたぞ。一応カリンの花。屋敷の庭に毎年咲くんだ」
(回想)「(俺が冬の代行者でなければ、俺がいなければ、こんなことにはならなかった)」
(回想)「(雛菊。何があっても雛菊だけは守ってやりたい。初めて友達になれた。彼女の痛みが自分の苦しみになった。もし人生の中で一度だけ誰かを救ってやれるなら、雛菊、俺はおまえを守りたい。こいつらの要求を叶えれば、雛菊たちは見逃してもらえるかもしれない。俺が死ねば3人を守れるかもしれない。死ぬしかない、俺が死ぬしか!)」
(回想)「凍蝶。君命を下す。そのまま走れ」
(回想)「最後に吹雪を起こす。血の跡は隠しきれないかもしれない。でも、お願いだ。なんとか逃げてくれ、おまえたちの命乞いをしてみる。もう、これしかない」
(回想)「二度と言わせるな!君命だ。2人を連れて逃げろ。俺はここで死ぬ」
(回想)「(俺は覚悟を決めたんだ。……俺は死ぬと決めたのに、心を挫かないでくれ)」
(回想)「どうしろって言うんだよ!俺だって死にたくない!でもおまえらが死ぬ方が絶えらない!みんなで死ぬより俺だけ死ぬ方がいいだろ!」
(回想)「俺、おまえが、おまえが好きなんだよ。雛菊。おまえが好きなんだ!行かないでくれ!」
(回想)「俺が今死ぬから!そうしたら、おまえは行かなくていいんだ!……嫌だ、雛菊。……行くな、雛菊!」
寒月凍蝶
(回想)「どちらかといえばそうだなあ、だからこそだ。代行者として同じ立場で、苦しみや悲しみを分かち合えるのは、この国ではおまえを含め4人しかいない」
(回想)「いや、それは、…するならちゃんと弟子にしたいじゃないか」
(回想)「女の子に貸すのだから、ホコリくらい払いなさい!」
第玖話 共同戦線
花葉雛菊
「違うの、雛菊、秋の、代行者さまが、今どんなに、怖がってるか、すごく分かるの、同じ経験、した、から。はやく、顕現を、終わらせ、るの。撫子さま、助けに、行きたい」
「雛菊、全力で、えにしに、春、届けて、帝州に、戻ります」
「雛菊も、狼星さまと、話、したかったな」
「大丈夫、さくら、守って、くれる、そうでしょ」
「だめ、だよ。二人で、生きるの。雛菊も、さくら、守る、から。二人で、生きるの。生きよう、さくら」
姫鷹さくら
(回想)「死んでどうするんですか。そんなんじゃ、雛菊さまを探せないっ」
(回想)「凍蝶さま。あなたも泣いていいんですよ」
「狼星。おまえはいつも段取りが悪い。おまけにひねくれていて暗い。常に葬式にいるような顔をしているし、とてもじゃないが我が主を恋い慕う許しを与えたくない。この私が、雛菊さまの護衛官である私が、雛菊さまを傷つける者を放っておくと思ったか。すでに我々春は、動く算段ができている」
「(怖い。いやだ。私はずっと探していた。探して、探して、探して、探して、探して、あなたは帰ってきた。あなたは私の知る前のあなたではないと、仰る。それでも帰ってくれた。それからもさまざまなことがあったけれど、ようやく、ようやくここまで来たんだ。助けにいって危ない目に遭ったら、また10年前のことが起きたら、お願いだから、もうどこにも行かないでほしい。でも、あなたは優しいから。自分より人が傷つくことに心を痛めてしまう。誰かを守るためなら、自分を犠牲にしてしまう。だから……)」
「……というわけだ。我々春は、夏と共に秋を救う」
「何を言っているんだ。ひとえに、雛菊さまの人徳。そうだな、いうなれば友達協定だ。理解できまい、おまえ友達いないもんな」
「改めて言うが、狼星。私はおまえたち冬が嫌いだ。雛菊さまがいなくなったのは冬のせいだ。…………だが、春の里を追われ路頭に迷った私を保護してくれたこと、戦い方を教えてくれたこと、感謝している。大規模捜査が打ち切られたことは未だに許せない。しかし、おまえたちだけは雛菊さまの捜索を続けていたと聞いた。挽回の機会をくれてやる、捜索は人海戦術。助けはいくらあっても足りない。なので、あえて私から言おう。冬の代行者寒椿狼星さま、我々は十分に耐え忍びました。今こそ戦う時、ともにこの戦に挑みましょう。春夏秋冬の共同戦線を組み、かどわかされた秋を救うのです」
「(雛菊さま、私は弱いんです。小さなころからそう、強がっていますが何もかもが怖いです。生きるのがいやです。でも、あなたと居ると強くなれる。本当はただの泣き虫で、わがままなだけの私が。……あなたの為ならいくらだって、私は世界に戦いを挑める。私たちは弱く、傷つけられてばかり。でも、二人なら)」
「はい!あなたを守ります!あなたを守って、いつか死ぬ!それがさくらの幸せです!」
「(春を咲かせよう。全ての人に、春を。明日が来なければいいと、願う人にも。明日が来ることを祈っている人のもとにも。さくらの花を舞い散らせよう。罪人にも善人にも、季節だけは平等だ。素晴らしい季節をあげる。それが世界への復讐だ)」
「(傍観していた奴らに、虐げてきた奴らに、私達を傷つけるすべての者たちへ告ぐ。生きてやる、ざまあみろ。これより先は、覚悟ある者だけが進める戦場。流した涙で、禊は済んだ!)」
葉桜瑠璃
「あたしたちと同じ代行者が、ワケわかんない理不尽な目に遭ってるのに、何もしないでいるなんてイヤだもん」
阿左美竜胆
「撫子は生きてる……今もどこかで俺に助けを求めてる(深入りするつもりはなかった、あくまで仕事だ。適当に務めたら、後継を育てて引退すればいい。さっさと成長して、手がかからなくなってくれと。そう思って、心を明け渡すつもりなんてなかった。いつの間に、俺は……)返してくれ、撫子。俺の秋を。……返せ」
寒椿狼星
(回想)「ごめん、ごめんな。雛菊」
(回想)「俺が、全部悪いんだ」
「雛菊がこの事件で心を痛めているのは聞いている。俺も可哀そうだとは思ったが、正直なにかしようとは思えなかった。10年前、雛菊がかどわかされた時、先代の夏と秋は何もしなかったからな。おまえたちも大人しくしろと言われているのだろう。俺たちは所詮駒だ。管理される駒には、勝手な行動は許されない。不幸だったと終わらせるしかない。それが一番ラクだ。だが、俺はあの時、助けてほしかったんだ。世界中に、助けてほしかった。俺のせいで攫われた、おれの好きな女の子を返してくれと、心の底から願った。きっと秋は今そうなってる。見捨てること、過去の自分を見捨てるに等しい。この命は雛菊にもらった命だ。雛菊に恥じない生き方をしたい、だから我ら冬。いや、俺と凍蝶、秋の捜索に助力すると決めた!俺たちが動くから、おまえたちは安心して、安全なところにいてほしい。それを伝えておきたかった」
「言える。記憶はあるが心が違う、とそう聞いた。それでも、戻ってきたと分かった時は、地に足がつかなかった。夏離宮で襲撃に遭ったと聞けば、生きた心地がしなかった。各地から10年ぶりの春の知らせが届けば、胸が躍った。雛菊に会いたい、そう思った。この気持ちは嘘じゃない。……だから、さくら、ありがとう。ありがとう、雛菊のことを守ってくれて」
第拾話 残像
花葉雛菊
「今、一番つらいの、阿左美さま、です。なんでも、頼って、ほしい。だから、くじけないで、ください。阿左美さま、こんなに頑張って、探してくれてる、秋の代行者さまにとって、何よりの、希望に、なります。従者は、代行者の、光です。撫子さま、きっと待ってます。くじけないで、みんなで、取り戻しましょう」
「雛菊ね、いらない子、でした。帰って来なくても、代行者の代わり、すぐ、生まれるし、みんな、別に、雛菊、じゃなくても、よかった。だから、速く、死んだほうが、いいと、思ってた。けど、生きるを、選んだの。そしたら、雛菊、必要と、してくれる人、待って、くれてた人、ちゃんといて、生きて、できること、春、以外にも、あった。みんなが、望んでない、雛菊でも、役に立つ、こと、ある!雛菊、このために、帰ってきたの、かも、しれない」
姫鷹さくら
「我々がこの戦線に参加するのは、10年前の雪辱を晴らすため。対価を払うのは賊となることでしょう」
「なぜ臆するのか。いいですか、阿左美さま。ここは正念場ですよ、おまえの秋を救いたくないのか」
「ならば腹を括れ!主のために我々を利用するくらいしてみろ。護衛官だろうが!あなたがしっかりしないと、代行者を世界の部品としか思わない連中に主導権を握られてしまう。一生後悔しますよ」
阿左美竜胆
「恩を売りたいのか、それとも金か。要求があるなら言ってくれ。とは言っても、今の俺たちに差し出せるものはほとんど無い。人員の過半数を失い、評判は地に落ちた。差し出せるのは俺の命くらいだ。それで撫子が救えるのなら、身を投じる覚悟はできている」
「恐れ多くも代行者に……撫子!」
「すべては俺の咎です。俺が、撫子を守ってやれたら、こんなことになってようやく気付きました。どうやら俺は、俺の秋が心底大切だったのだと」
「花葉さま、姫鷹さま。改めて礼を。お二人の言葉に救われました。必ず撫子を救います」
長月礼子
「姫鷹さま!ぼく、感動しました!阿左美がひよっっても、僕が必ずフェアリーちゃんを救います!」
寒椿狼星
「俺は話し合いに来たわけでも、懇願に来たわけでもない。俺たちのジャマはするな、いいな?もう一つ、これからは雛菊とさくらをくれぐれも大事にすることだ。もし二人になにかあれば、この春の里が氷漬けになることだろう」
「まあ、後悔しすぎるな。経験者からの忠告だ。後悔は心も体も蝕む。いざという時、冷静な判断ができなくなる。今は貴殿の秋を救うことだけを考えろ」
観鈴・ヘンダーソン
「じゃあ私と同じじゃない、お揃いね。やっぱりあの子は私の娘にふさわしいわ」
「ねえ美上、手伝ってね」
(回想)「あなた、ヒーローみたいね」
(回想)「美上、この世界は間違ってるわ。弱い人たちが助けを求めていても、誰もがあなたみたいに助けてはくれないの。だから、自分で変えるしかないのよ。その為には弱くちゃだめなの、だから手始めに、神様を……四季の代行者って便利よねえ。殺してもまた違うのが生まれるんですって。何度も何度も何度も殺して、政府を脅しましょう。世界を変えるために。ワクワクするわね、美上。一緒に神殺しをしましょう」
美上
「どうしてだか、そう言われると断れない」
第拾壱話 焦燥
花葉雛菊
「雛菊ね、私が守りたかった3人に、私を、返して、あげたかった。あの子を、狼星さまに、会わせて、あげたい。でも、できない。それでもね、偽物の雛菊にも、できること、あったよ。さくらと、また、仲良く、なれたでしょ。だから、狼星さまたちとも、仲良くなれたら、前と同じ形じゃなくても、いい。恋、じゃなくても、いいから、そうしたら、10年前の、辛かった、皆の気持ちが、変わるんじゃないかって。さくら、雛菊、変わったよ。また、歩き、出せた。それはね、さくらの、おかげ。さくらが、どんな時も、ずっと側にいてくれたから、だから、今度は、雛菊が、さくらが、もう誰かを、憾むの、疲れたって、なった時、おいでって、してあげたいの」
「あの時、助けてくれて、ありがとう、ございます。ずっと、お礼、言いたかった、です」
「雛菊ちがいます。違うもの、中に入っています。まがいもの、です。けれど、続いているところも、あります。前の雛菊は、死んでしまったけれど、今の雛菊、受け継いで、生きています」
「今いるの、そういう雛菊、です。お会いしたら、直接言おうと、思ってたけど、……言えるか、分からなく、なってきた、から。今、言います」
「凍蝶おにいさま、狼星さま。10年前の、雛菊を、生きて、かえしてあげられなく、ごめんね」
姫鷹さくら
「いつも通りの国宝級のお美しさです」
「この世に舞い降りた天女のような可憐さです」
「雛菊さま、見ないでください。お目が汚れます」
「(雛菊さまは過去から逃げるのでもなく、もてあますのでもなく、決着をつけ、新しく始めようとしておられるんだ。雛菊さまはずっと考えていた。自分に何ができるのかを。なのに、私はいつも、自分のことばかりで……自分がひどく愚かに思える)
「もし、これで私たちが死んでもくじけてはいけませんよ。……阿左美さま、あなただけは絶対に撫子さまを諦めてはいけない。従者は代行者の光です。雛菊さまのお言葉をお忘れなく」
阿左美竜胆
「約束します。撫子をあきらめない」
長月礼子
「10年前、冬の里襲撃事件にて、雛菊さまが身を挺し、他の季節をかばわれた。そのお姿に深く感銘を受けた我らは、根絶派から脱却し、彼岸西を結成しました。そして、春至上主義を掲げた。僕が四季庁に入ったのも、秋に潜入したのも、幹部の指示です。全ては春を崇拝できる世界のため!」
「でも、僕は、長くフェアリーちゃんのそばにいすぎた。僕には彼女のことは殺せない。なんとかして守ってあげたかった」
寒椿狼星
「あんなに仲が良かったのにな」
「もし何か言われたら、おまえがどれほど探していたか、気にかけていたか。俺がちゃんと言ってやる!」
「凍蝶!お願いだ、惚れた女と友を救いたい!ついてきてくれ!」
寒月凍蝶
「こちらこそ。10年前、命をお救いいただき、ありがとうございます」
「私にはもう、そう呼んで頂く資格はない」
第拾弐話 襲来
花葉雛菊
「さくら。大丈夫、雛菊も、手伝う、よ」
(回想)「(それからの8年間、私はこの人の娘として行かされていた。最初は希望を持っていた、きっと、誰がが、助けに来てくれる。でも、何年も閉じ込められている間に、何もかも信じられなくなっていった……だって、誰も助けにきてくれない)」
(回想)「(もしかしたら、違う自分で呼ばれる自分が正しくて、昔の記憶は誤りなのかもしれない。外の世界はあれ?この自分は正しい?もう誰も探していないだなんて、言わないで)」
(回想)「だめ、だよ。あきらめちゃ、だめ。……助ける、よ。戦って、お願い。……まだ、がんばれ、るよ」
(回想)「どうして、どう、して、雛菊を、殺したの……どうして!!!!」
(回想)「(帰ろうね、帰してあげるよ)」
姫鷹さくら
「使えるものはつかったほうがいいだろう、武器も取り上げた」
「(最善策はなんだ、誰を信じればいい、どいつが敵で、どいつが味方だ……お落ち着け、私には守るべき方が)」
「(守らなければ、守らなければ、……雛菊さまを。私が、守るんだ!)」
寒椿狼星
「石原、なにか事情があるなら話せ。いやいややっているように見えるぞ。短い間だったが、おまえにはいろいろ助けてもらった。だから俺も助けてやる、訳を話してみろ」
「ありがとうな。だが、俺は俺の春を助けに行かねばならない。たとえ、死ぬとしてもだ」
「殺させない、助けてやる、俺につけ。後悔はさせない、必ずおまえの忠義に報いると、四季の神々にかけて誓おう」
「凍蝶。正気になるな、狂っていくぞ」
「最短距離で行くぞ、二人を助けるために」
寒月凍蝶
「だからといって、これは正気ではできんな」
「おまえの育て方、間違えたなあ」
石原
「今まで騙して申し訳ありません。お二人は私を人間として扱ってくれた。親なんかよりずっと優しかった、だから助けたい!今なら逃げられる!逃げましょう!」
観鈴・ヘンダーソン
(回想)「『この人、私が誘った』って、『スカートが短いから』だから手を出しても許されるんですって。こういう男、もう何度目かしら。意味が分からないわ、だからね。同じことをしてみたの、この人害虫みたいな顔してる、だから駆除しても許される、そういうことよね?」
(回想)「強くなって、弱い人を助ける人になる」
(回想)「なれるわ、私。失うものがないもの」
(回想)「なれるわ、私。痛みを知ってるもの」
(回想)「ねえ、手伝ってね、美上。神様を殺して、政府を脅して、世界を変えるの。そうだ、いいことを思いついたわ」
(回想)「ワガママはだめ。世の中もっとつらいことがあるのよ、私はちゃんと耐えてきた。だからあなたもそうすべきよ。……でしょ?」
(回想)「助けてなんかくれないわよ、誰も。雛菊、言うことを聞きなさい。あなたが守ろうとした人たち、全員、殺すわよ」
第拾参話 奪還
葉桜瑠璃
「君命!撫子さまを守りなさい。あたしは大丈夫だから。秋を守って!」
「みんな、お姉ちゃんを守ってあげて。大丈夫、あたしとお姉ちゃんが力を合わせれば、絶対勝てる!」
「(あ~、やっちゃった。お姉ちゃんの力になれると思ったんだけど、ダメだなあ。ごめんね、おねえ、ちゃん……)」
「(お姉ちゃん、ごめんね。いつも迷惑かけて、もっといい妹でいればよかった。でもこれで、お姉ちゃんはラクに生きられるのかな、お姉ちゃんごめんね、ごめん……)」
葉桜あやめ
「うそ、うそよ。瑠璃……」
「悪い、冗談やめて、ねえ、ウソって言ってよ。瑠璃……」
「(夏の神様、なんて愚かなの。私達が双子だから?本当にイヤになる。瑠璃の歌が染みついてる、ずっと側にいたから、ずっと、そばに……)」
「瑠璃。お姉ちゃん、夏の代行者になっちゃった。どっちでもいいなんてひどいよね、どっちでもいいなら、私が死ねばよかった……瑠璃、神様に一緒に文句を言おう」
「瑠璃が、瑠璃が……私が守れなくて、妹が……」
「瑠璃、瑠璃、生きてる、生きてる!……ありがとう、ありがとうございます、ありがとうございます」
祝月撫子
「私の王子様で、ナイトの阿左美竜胆。とってもカッコイイの」
「まだぬくいよ」
「生も死も、私の領域よ。お任せください」
「(大丈夫、あやめ様、心配しないで。竜胆がいれば私は何だってできる)」
「いいえ、私のほうがありがとうございます。助けられてよかった、助けてもらえてよかった」
「竜胆もありがとう。……泣いているの?待ってね、なでなでするわ。……じゃああやめ様にするわ、あやめ様、なでなで」
「私ね、竜胆の夢みてたわ。……いちょうの葉で花束を作ってくれたの、覚えてる?……嬉しかった、あの時のことは、竜胆のことを考えていたから、怖くても頑張れたの」
「竜胆、なんだか人柄が変わっていない?今の竜胆もステキ。これが本当の竜胆なのね」
「汚くなんかないわ。私はどんな竜胆でも、絶対に、絶対に好きよ」
「どんな竜胆でも、私にとってはね、素敵な王子様なの。ずっと、ずっとそう、ずっと変わらず大好きよ、竜胆」
阿左美竜胆
「返せ、……返せ、……返せ、撫子を、俺の秋を」
「殺す。人殺しになろうとかまわない、かまうものか! 俺の秋を、俺の撫子を!!!」
「大丈夫です、あやめ様。きっと、大丈夫。頼む、撫子、瑠璃さまを救ってくれ」
「撫子、えらいぞ、本当にえらかったな」
「何度でもやる、毎年やる」
「撫子、守れなくてごめん。こんなに傷ついて、おまえの愛らしい顔が、本当にすまない。これから一生をかけて償う。死ぬまでおまえに仕える、絶対に償うからな、撫子」
「(ああ、おまえの為なら何でもする。俺の全てを捧げる。俺のお姫様のためなら、何度でも俺は……王子様になる)」
姫鷹さくら
「(どうして、あんなにも、あんなにも憎んでいたのに、声をきくだけで、こんなにも……)」
「はやく来い(早く来い、凍蝶)」
寒月凍蝶
「泣かないでくれ、おまえに泣かれるのは何よりつらい」
「私をまだ恨んでいるか、言いたいことがたくさんあるだろう。全部聞く、殴ってくれてかまわない、そのためにも生きて会いたい。信じないだろうな、私はおまえの味方なんだ。ずっと変わっていない、だから泣くな、待っていてくれ」
第拾肆話 冬に咲く春の花
花葉雛菊
「みんな、置いて、いくの? ダメ、だよ。爆弾、ある、みんな、逃がして、あげないと」
「観鈴さん。雛菊が目的、雛菊が残ってたら、爆破しないで、追ってくる。みんな、その間に、逃げられる、よ」
「戦う、戦うの……もう、自分を差し出したり、しない。もう、前の雛菊じゃ、ない」
「ごめんね、さくら。雛菊、今日しかこれ、言いません。……これは、我々の戦い。賊から民を逃がすこと。至上命令とします、春の代行者としての、君命です。皆さまにも、協力の要請を致します。一人では、できません、少しでも多くの、命を守る。そのお手伝いを、してください。お願い、いたします」
「雛菊、さくらがいれば、強くなれる。強く、なるの。だから、お願い、一緒に戦って」
「雛菊はこの服が一番好き。さくらが一生懸命、選んでくれたから。前のは観鈴さんに、着せられた、服は、きらい、です!!」
「誰かを代わりにすると、観鈴さんのなにか、解決、するの?勝手に重ねないで、雛菊は、あなたの、娘じゃ、ない!もう、放って、おいて、もう、誰も、殺さ、ないで!それが、観鈴さんの、ために、なっても、しないで!」
「ちがう。守ったのは、雛菊、じゃなくて、死んでしまった、あの子。狼星さま、生きてて、嬉しい。だけど、この嬉しいは、雛菊の、もの、じゃない。本当は、あの子の、もの。前の、雛菊。狼星さまのこと、好き、だったの。あの子を、返してあげられなくて、ごめんね」
「(これはあの子のもの。あの子のもの。あの子のもの……この夢も、この言葉も、みんな、あの子の、もの。わたしは、あの子を、返して、あげられない)」
(あの子)「あと、任せてもいい?」
「(これは夢、本当、じゃない。分かってる、だけど……)うん!雛菊、がんばる!」
「雛菊、狼星さま、好き、だよ。でも、ね。どんなに好きな男の子がいたって、ね。雛菊が、世界一、愛おしい、女の子は、さくらだって、決まってるの」
「大好き、だよ!さくら」
「ご安心、くださいませ、春の、顕現。見事、はたして、みせましょう!」
姫鷹さくら
「拝命致しました」
「いつ、いかなる時も私はあなたを守ります。そして、二人で生きる、大丈夫、私たち二人なら」
「(弱くなる、そう思っていた。憎しみを捨ててしまえば刃になれない。私には必要だった、……刃になれなければ守れない。でも! 私の神様が先へ進むと決めた、だから!)
「たとえ今が苦しくても、生きていれば必ずいつかは……」
「親戚のひと、みたいなこと言うな!」
「来年も、再来年も、私たちで春を捧げましょう。二人ならきっとできます」
寒椿狼星
「俺が誰だか、忘れたのか」
「いつまでも10年前と同じ、無力な子供だと思うなよ」
「氷の花、覚えてないか?一緒にたくさん遊んだ、おまえに助けてもらって、俺、大人になれた」
「君が帰ってきてくれて、俺はすごく嬉しいんだ。伝えてくれて、ありがとう。俺も、ずっとずっと好きだったんだ。返事を届けてくれて嬉しい。だから、泣かないでくれ、助けにきたぞ、もう大丈夫だ」
「だけど君は、俺が好きだった女の子を、最後まで見届けて守ってくれていた人だろう。それに俺たちは一緒だ、あの子の思い出を持ってる。俺はあの子をずっと好きだったけど、それが君の帰りを喜ばないことにはならないよ。戻ってきてくれて、ありがとう、生きていてくれて、ありがとう」
「君に会いたかった、ずっと。君は俺の春だ。もう君を誰にも奪わせないし、傷つけさせない。おかえり、雛菊」
寒月凍蝶
「さくら、大丈夫か。よく、頑張ったな」
「さくら、だよな。その、大きくなったな」
観鈴・ヘンダーソン
「(欲しかった、誰かが守る姿が。隣に、いてほしかった、私の人生に。こういう存在が)」
「私はね、そうやって叫んでもちっとも世界が優しくならないから、立場を変えたの。他人があたしにしてきたことを、あたしが他人にしてやることにしたの。それの何が悪いの?私のことは誰も救ってくなかった!神様なんて役立たずよ!」
「だから!私がより良い世界を作ってあげる!代行者の力をもって、困っている人のために役立てるべきなのよ!助けを求めている人たちがいるのに、なぜ無視するの?!あなたが言ってることは子供のダダよ。そんな生ぬるい祈り、私には全く響かない!」
雪柳紅梅
「(雛菊。大変な役目をごめんね、もう少し、頑張ってもらってもいい。よろしくね、雛菊)」



