第漆話 宵闇
花葉雛菊
「狼星さまと、凍蝶おにいさま、どんなの喜んでくれると思う?」
「ごめんね、さくら。会いたい、の気持ちがね、どんどん、膨らんでる、の」
「ここが、いっぱいに、なってね。時々、キュウってなる。会いたいな、って」
姫鷹さくら
「冬に土産など不要です、接触する予定も一切ございません」
「(怖い、会ったらどうなってしまうのか。自分が分からない、凍蝶)」
祝月撫子
「竜胆はわたくしの王子様ね」
「私の名前、撫子は秋の花よね!」
「やっぱり!お揃いよ、お花の名前!初めてのお揃い!」
「竜胆のお菓子、残しておくわね。りんごのタルト!」
「私のこと、1秒も忘れないでね」
「竜胆、まだかしら。早く一緒に食べたいわ」
(回想)「何から守るの?」
阿左美竜胆
「撫子、あなたが望むならいくらでも」
「あなたは世界で一番大切な姫であり、守るべき最愛の主であり、この大和でただ一人の秋の代行者。……俺の秋」
「あなたのことだけを、毎秒考えていますよ」
「どう考えてもバカは春の従者だろう。代行者は世界に季節をもたらす存在、公人なんだ。護衛官がうまく手綱を握って言うことを聞かせなくてどうする」
「それも仕事のうちだ。……子供だからな、適当に陽を浴びさせて菓子でも食わせて、ごっこ遊びであやしてさえいれば機嫌がいい」
「神通力の精度は、体調や気分の良し悪しで大きく変わる。万全な状態で機能させるためだ」
「撫子を比較に使うのはやめろ」
(回想)「この身を御身に捧げ、守り抜くことを誓います」
(回想)「あらゆるものからです」
「撫子、撫子、撫子、撫子、……俺の秋」
長月礼子
「へえ、フェアリーちゃんにゲロ甘な君がそれを言う?」
「出た!阿左美竜胆、王子様モード」
「それだよ!実際、感情の揺れが神通力に作用するってデータがでてる。代行者の力はまさにお気持ち次第ってわけさ!なのに、嫌がる代行者に大勢の客の前で、アイドルよろしく歌って踊れって、逆効果もはなはなだしい。しかも相手は誘拐被害者だよ、バカは四季庁のほうでしょ。まあ、でも言い換えれば感情の昂り次第で、ものすごい力を発揮するのも可能なわけさ」
「それだけ雛菊様が桁違いだってこと。なにせ、公式記録にはないんだけど、ここだけの話。誘拐した賊の根城を吹っ飛ばして出てきたって噂もある」
「君さあ!婦女暴行事件の被害者にも、抵抗できたはずだって言うタイプでしょう!」
「近寄らないでください、他者への思いやりが死んでるクソ野郎」
「誘拐や監禁、特定環境下における心理、洗脳、トラウマ、事件のショックで心に深い傷を負うこともあるんだよ。周囲の人たちだってね」
「代行者と護衛官は主従関係を結ぶ過程で、強い共依存になりやすいって、論文にもあったけど。自覚無いのかなあ?」
寒椿狼星
「二人が顕現を終え次第、正式に面会を申し入れる。諸々事情が分かって確信した。春の里は信用できん、四季庁もだ。季節の祖である冬が、この俺が、雛菊たちの後盾になる」
「しかし面会だの後盾になるだの、我ながらただの言い訳だな。おまえも本当はさくらに会いたいだけじゃないのか。力になりたいのは本当だ。これから先、今度こそ何があっても、俺が守る。だが、それだけならこれまでのように遠くから見守っておけばいい。雛菊たちのことを思えば、そっとしておいた方が、わざわざ面会したいだなんて俺のエゴでしかない。……でも、10年だ。待ち続けて、探し続けた」
「俺のせいなのは分かってる、会う資格なんてないのも、許されていいはずがないのも分かってる。それでも…………会いたい」
観鈴・ヘンダーソン
「まるであの子みたい」
第捌話 桜雨
花葉雛菊
(回想)「冬の代行者さま。お目通りが叶い、嬉しく存じます」
(回想)「いえ、さくらが頑張っているところを見ていたいんです。お邪魔でなければ」
(回想)「お花とか、お星さまはできますか?」
(回想)「これ、雛菊です。私の名前の花、よかったら」
(回想)「だめ!絶対だめ!狼星さま、諦めないで、逃げて生きるの!」
(回想)「さくら。大丈夫よ、きっと助かる」
(回想)「誰も死んではいけません!そんなこと、絶対にダメなんです!」
(回想)「狼星さまは私の大切な人です!私とまた遊んでくださるんですよね?!……簡単にそんなこと言わないで。私は狼星さまとしか、狼星さまじゃないと。それに死んだあとのこと、狼星さま知らないでしょう。私は知ってます、私のお母さまは狼星さまと同じように死んでなんとかしようとしたから。…ジャマならいなくなればいいって。そうしたら娘の暮らしも良くなる、そう願って。……でも、そうじゃないんです!いくら傷つける人の言いなりになっても、傷つけた人は狼星さまが死んだあと、ただ笑うだけなんです。私知ってるんです!!」
(回想)「狼星さま。今、死にたいわけじゃないでしょう」
(回想)「狼星さま。なら全員で逃げましょう。これは負けじゃありません。全員で逃げて、逃げて、逃げて、耐え忍び、戦機を待つのです」
(回想)「お願いです。さくらを殺さないで、狼星さまを殺さないで。凍蝶お兄さまをもう、撃たないで。……もうやめてください、私が人質になります」
(回想)「冬の代行者を殺しても、代わりの代行者が生まれます。きょうは十分ですよね、お願いです。もう誰も傷つけないでください!」
(回想)「さくら。きっと助かるよ。大丈夫、わたしが守る」
(回想)「凍蝶お兄さま。私、もうへとへとで、これが精いっぱいなんです。さくらをお願いします、お願いです」
(回想)「すごく嬉しいです、狼星さま。狼星さま、一緒に遊んでくれてありがとう。氷の花をくれてありがとう。たくさん優しくしてくれて、ありがとう狼星さま。……きっと私も助かります。だから、また私と遊んでくれますか」
(回想)「狼星さま、お返事必ずします、だから狼星さま。……死なないで生きてくれますか」
姫鷹さくら
(回想)「雛菊さまをお守りするためなのに、里の者が起るのは変です。それに、女だからというのは、時代遅れだと思います。でも、凍蝶さまのお立場が悪くなると困るので、内緒じゃダメですか?見て覚えるので」
(回想)「雛菊さま、雛菊さま行かないで!」
寒椿狼星
(回想)「おまえは、保護者で従者だし。……兄、みたいなもんだろ」
(回想)「……俺の春だ」
(回想)「できたぞ。一応カリンの花。屋敷の庭に毎年咲くんだ」
(回想)「(俺が冬の代行者でなければ、俺がいなければ、こんなことにはならなかった)」
(回想)「(雛菊。何があっても雛菊だけは守ってやりたい。初めて友達になれた。彼女の痛みが自分の苦しみになった。もし人生の中で一度だけ誰かを救ってやれるなら、雛菊、俺はおまえを守りたい。こいつらの要求を叶えれば、雛菊たちは見逃してもらえるかもしれない。俺が死ねば3人を守れるかもしれない。死ぬしかない、俺が死ぬしか!)」
(回想)「凍蝶。君命を下す。そのまま走れ」
(回想)「最後に吹雪を起こす。血の跡は隠しきれないかもしれない。でも、お願いだ。なんとか逃げてくれ、おまえたちの命乞いをしてみる。もう、これしかない」
(回想)「二度と言わせるな!君命だ。2人を連れて逃げろ。俺はここで死ぬ」
(回想)「(俺は覚悟を決めたんだ。……俺は死ぬと決めたのに、心を挫かないでくれ)」
(回想)「どうしろって言うんだよ!俺だって死にたくない!でもおまえらが死ぬ方が絶えらない!みんなで死ぬより俺だけ死ぬ方がいいだろ!」
(回想)「俺、おまえが、おまえが好きなんだよ。雛菊。おまえが好きなんだ!行かないでくれ!」
(回想)「俺が今死ぬから!そうしたら、おまえは行かなくていいんだ!……嫌だ、雛菊。……行くな、雛菊!」
寒月凍蝶
(回想)「どちらかといえばそうだなあ、だからこそだ。代行者として同じ立場で、苦しみや悲しみを分かち合えるのは、この国ではおまえを含め4人しかいない」
(回想)「いや、それは、…するならちゃんと弟子にしたいじゃないか」
(回想)「女の子に貸すのだから、ホコリくらい払いなさい!」



